『サブウェイ123 激突』75点(100点満点中)
The Taking of Pelham 123 2009年9月4日、TOHOシネマズほか日劇にてロードショー 2009年/アメリカ映画/スコープサイズ/105分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:トニー・スコット 原作:ジョン・ゴーディ 脚本:ブライアン・ヘルゲランド 出演:デンゼル・ワシントン ジョン・トラボルタ ジョン・タトゥーロ ルイス・ガズマン

今見るなら、オリジナルより面白いかも

スタイリッシュな映像とアクション演出で知られるトニー・スコット監督の最新作は、確かに彼らしいおしゃれな見た目の映画だが、どこか「古きよきアメリカ映画」的な懐かしい香りも感じさせる。

もっとも本作は、74年の地下鉄サスペンス「サブウェイ・パニック」のリメイクだからその印象も当然かもしれないが、何はともあれ、安心して楽しめるアメリカンエンタテインメントを堪能できたことは、久々に感じる幸福であった。

ニューヨークの地下鉄がハイジャックされた。犯行グループは先頭車両に人質の乗客とともに乗り込んだ後、切り離して停止。異変を察知した運行司令室では、たまたま当直だったベテラン職員ウォルター(デンゼル・ワシントン)が犯人との交信に成功。だが主犯格でライダーと名乗る男(ジョン・トラヴォルタ)の要求はとんでもないものだった。「1時間以内にニューヨーク市に1000万ドルを要求する。時間をすぎれば人質を一人ずつ殺す」

地下鉄を舞台にしたテロを、男と男の頭脳戦として描く本作は、期待通りの骨太サスペンス。あわれテロリストに気に入られてしまった交渉役の職員はじめ、警察や市長ら、男だらけの汗臭い騙しあい、腹の探り合いは、時折緊張感を和らげるユーモアをはさみながら、小気味よく展開する。

プロフェッショナルたちが自らの誇りをかけて、もてる知識、組織力、経験をフル動員して戦う姿が胸躍る。男が楽しめる仕事映画、的な一面も持ち合わせているといえよう。

とくに主人公は、犯罪者と対峙するプロでこそないが、地下鉄については誰にも負けないベテラン。持ち前の機転で、話術だけを武器に恐るべき頭脳犯と渡り合う。その一進一退の攻防、中でも乗客のひとりである男子学生の命を救うために、マイク越しに犯人を説得する場面の緊張感などは相当なものだ。

よくよく考えてみると、犯人の経歴から想像される動機、計画の細部などには疑問も残るのだが、それを補って余りある面白さに溢れている。

実際に役者を線路におろして撮影された映像も迫力がある。この路線には東京メトロ銀座線のように、集電用の3つ目のレールがあるため、万が一それを踏んだら600ボルトのパワーでいい具合に痺れてあの世生き。また、隣の線路を通り過ぎる車両の風圧も相当なもので、何かにつかまっていないと体ごと巻き込まれてしまうほどだという。ハリウッド映画といえど、こうした場所で撮影許可が出たのは稀であろう。

単なる善人ばかりでない登場人物の中で、とくに人物造形が光るのがジェームズ・ガンドルフィーニ演じるニューヨーク市長。くえない政治家だが、だからこそラストで主人公とする約束に、説得力と頼もしさを与えてくれる。映画として最後をきっちり締めるために、地味ながらこの人物の果たした役割は大きい。

金融危機や同時多発テロ、インターネット等々、現代的な要素をつめこんで生まれ変わった傑作地下鉄ムービー。普通に今みるなら、オリジナルをも凌駕する面白さ。オススメである。



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