『ブラック・ウォーター』60点(100点満点中)
BLACK WATER 2009年8月22日(土)銀座シネパトスほか全国公開 2007年/オーストラリア/カラー/90分/ビスタサイズ/DOLBY DIGITAL/字幕翻訳:川又勝利 提供・配給・宣伝:プレシディオ 協力:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
監督・脚本:アンドリュー・トラウキ、デイヴィット・ネルリッヒ 撮影:ジョン・ビギンズ 出演:メーヴ・ダーモディ ダイアナ・グレン アンディー・ロドレーダ

ワニ川に取り残された一家の悲劇

外洋でダイビングを楽しんで水上に出たら、船がいなくなっておりました。で知られる『オープン・ウォーター』シリーズは、しゃれにならない実話ものとしてそこそこの成功を収めたが、本作もその系統の実話もの。今回犠牲になるあわれな3人は、世にも恐ろしい、ワニだらけの水泳大会を体験することになる。

バカンスでオーストラリアにやってきた姉妹グレース(ダイアナ・グレン)とリー(メーヴ・ダーモディ)、姉グレースの恋人アダム(アンディー・ロドレーダ)。3人は楽しみにしていた「野生動物見学ツアー」の船に乗り遅れ、やむなく小船で川釣りに出る。ところがそこは巨大ワニ、クロコダイル(体長3メートル)の巣窟だった。

初デートで井の頭公園のボートに乗ると別れる、なんて都市伝説があるが、そんなカップル用ボートに毛がはえたような小船で出かけたのが運のつき。観客の期待、いや危惧通り、3人とガイドを乗せたボートはワニくんの体当たりでひっくり返る。

そこから先は、マングローブの木の上に取り残された3人とワニの、いつ終わるとも知れぬ我慢比べ。見るからにジャングルの奥地然とした見知らぬ土地で、飲料水すら持たず長期戦を行う精神的つらさは、想像に余りある。しかも足元には腹ペコの肉食男子(爬虫類)。進退窮まるとはまさにこのこと。

オープニングのワニ園におけるエサやりシーンのあまりの迫力に、ボート遊びが始まってから先、ドキドキがとまらない。3人の内訳が、「妊婦」「メガネをなくした男」「足をケガした美少女」という、誰もが一つずつハンディを背負った設定になっているのもうまい。

絶望的なまでに広い川幅、上空をのんきに飛ぶジェット機などをさりげなく写すいやらしさもなかなかだ。

ただ残念なのは、取り残された3人同様、監督さんにもろくな知恵が出ず、こちらの予想を裏切るような展開、登場人物たちのチャレンジがみられなかった点。『30デイズ・ナイト』の記事でも書いたが、「隠れる→我慢できず一か八か逃げる→襲われる→振り出しに戻る」の繰り返しではダメなのだ。その流れを立ち切れるかどうかが、監督すなわちエンターティナーに問われている。キャラクターたちが、命を懸けたギャンブルを繰り返すだけでは、こいつらバカか、の感想しか出てこない。

ちなみにこの映画は低予算だが、監督はなんとか迫力を出したくて、いろいろ熟考した結果、本物のワニを撮影に使うという気の違った、いやナイスなアイデアを思いついた。動物指導の専門家などに聞いたところ、ワニなら演技ができるだろうとのお墨付きも得た。

それはきっとジョークだったのだろうが、愛すべきこの監督はそれを真に受け、本物を川に放った結果、案の定いう事を聞いてくれず、大切なカメラ機材一式をひとのみに食われてしまった。

私はなんだか、そんな監督がどうしても嫌いになれない。



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