『THE ダイエット!』70点(100点満点中)
Fat chance 2009年7月25日、アップリンクにてロードショー 2007年/オーストラリア映画/DVカム/52分 配給:パンドラ
監督・脚本・プロデューサー:関口祐加 撮影:キム・バターハム 編集:マーク・フォックス 音楽:ガイ・グロス プロデューサー:ニッキ−・ローラー

アラフィフ女性がダイエットに挑む姿を、全世界に赤裸々公開

女性監督みずからダイエットに挑むという、やけっぱちドキュメンタリー『THE ダイエット!』。これを見ると、たくさんの笑いと涙を与えられ、明日から自分もダイエットを頑張ろうという気になれる。もちろんその努力はきっと失敗するが、面白い映画を1本見たという事実だけはとりあえず残るだろう。

この映画の監督・関口祐加は49歳のシングルマザー。自他共に認めるスーパーデブだ。映画が始まると、いきなり彼女のふくよかすぎる肉体がボヨンボヨンと画面に踊り、あげくの果てにはヘアヌードまで登場する。

ギャスパー・ノエだったら間違いなく警告するであろう「観客の感受性を破壊しかねない危険シーン」に、私は大きなショックを受けた。このトラウマをどうしてくれる。

なにしろこの監督、幼少のころからピザを好み、結婚時代は夫にみつからぬよう、夜中に頼んだLサイズピザを一人で食べていたという筋金入りだ。某大手掲示板における煽りの常套句、「デブでも食ってろピザ」を、まさに地でいく体脂肪の達人である。

あらゆるダイエット法で失敗したこの女性が、今回最後に試すのが「映画ダイエット」。自分のすべてをカメラの前にさらけ出し、「絶対やせる」と宣言するわけだ。やせなければ映画が完成しないのだから、これはなかなか効果がありそうだ。一般人には試せない、という欠点はあるが……。

さて、そうして出来上がったこのドキュメンタリーは、じつに楽しい。

にこにこ顔で自虐的ナレーション(英語)を入れるテンポよい構成は、日本の一般的なドキュメンタリー映画ではなく、欧米の陽気なそれ。エンタテイメント性の高い、「とにかく私の腹を見て笑ってくれ」といわんばかりの内容になっている。

「オーストラリアに移住したら洋服が30号以上あって、私のための天国かと思った」などと語る監督のギャグセンスのよさには感心する。あまりに喜んだ彼女は、そのまま30kgも体重が増えたそうだ。環境に馴染むにも程がある。

ダイエット専門家の話や精神科医とのセラピー(お相手は、ダイエットを心理学からアプローチして成功させる事で知られる先生だ)、そしてスタイリストに体型をカバーする洋服を選んでもらう等々、次々チャレンジするその姿には、なぜか男性でも共感してしまう。

はたして彼女は無事やせて、素敵な男性と出会うことができるのか?!

自らの内面に臆せず切り込んでいく監督。やがてなぜ太ったのか、その理由が明らかになるとき、そこまでゲラゲラ笑っていた観客の目には、大粒の涙が浮かぶことになるだろう。

きわめて好感度の高い、というより嫌いにはなれそうにない一本。誰だって、ピザは好きなものだ。

幸い私はいつでも10kgや20kgは落とせるダイエットのプロ(この夏は体重10kg、ウェスト10cm落とした)であるから、減量の技術的側面にはさほど興味はなかったが、それでも苦労する監督には深く共感できた。それだけ映画がよくできていた、ということだろう。



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