『おっぱいバレー』90点(100点満点中)
2009年4月18日(土)より、全国ロードショー 2009年/日本/カラー/112分/配給:ワーナー・ブラザース映画、東映
原作:水野宗徳 監督:羽住英一郎 脚本:岡田惠和 製作:日本テレビ、エイベックス・エンタテインメントほか 出演:綾瀬はるか、青木崇高、仲村トオル

綾瀬はるか先生の就任挨拶が、個人的なオススメシーン

『おっぱいバレー』は、じつのところ中高年男性向きのオススメ品である。だが、いい年をしたオジサンが、娘のような年頃の受付嬢に「『おっぱいバレー』、大人一枚!」と、キョドった笑顔で言った日には、末代までの大恥だ。だから私は、いっそ題名を『哀愁の旅路』とかに変えたらいいと、4年ほど前から言ってきた。

というのはもちろん嘘だが、いろいろな媒体で似たようなことを言っていたところ、先日映画会社が「恥ずかしい人は、略語の『OPV』(おっぱいばれー)でも買えるようにします」と、大々的にマスコミを使って発表してくれた。おかげで、よけいにチケットを買いにくくなった。

1979年の北九州。とある中学校の弱小バレー部に、新任教師(綾瀬はるか)が顧問としてやってきた。ところがバレー部の面々は、そもそもスポーツなどやる気のないダメ生徒ばかり。誰かが拾ってきたビニ本にむらがるような、エロの事しか頭にない悪ガキだった。そんな彼らにやる気を出させようとする教師だったが、口だけは達者な中学生どもに逆に約束させられてしまう。「一勝したらおっぱいを見せること!」

学生プロレスの世界を描いた『ガチ☆ボーイ』(2007)のように、笑っていたはずが、気づいたら涙が流れているタイプの、青春コメディー&感動ドラマ。

「おっぱい目当ての努力」なんて、とっても不謹慎に思えるが、終わってみればこれも案外アリじゃねーの? と思わせる筋運びは見事。

余談だが、子供が出てくる映画は、純真無垢な監督さんが作るとたいてい失敗する。子供なんてものはもとより不謹慎な存在であり、その毒を生かしてこそいいものができる。そのことを理解している、少々悪い人が作ると『おっぱいバレー』のような良作が生まれる。

たとえ悪ガキが出てきたとしても、彼らが何かを学んでイイ子ちゃんに成長するストーリーだったら、面白くもなんともない。そんなものは、ディズニーに任せておけばよい。

本作が素晴らしいのは、最後までガキどもがめげることなく、バカのままで、性懲りのないところだ。

オジサンたちにとってその不屈の精神?は、かつて自分たちが確かに持っていたはずであり、今、忘れつつあるものなのだ。それを思い出させてくれるから、この作品は傑作なのである。最後の試合で、何があろうと陣形を崩さずに戦う彼らの姿は、涙なしには見られない。

実話を基にした原作の時代設定を79年に変更した結果、リアリティも出た。今の子供にとっておっぱいは、ブラウザをクリックすればすぐに見られるありふれたものだが、70年代の中学生にとっては違う。綾瀬はるか先生のおっぱいを見るためならば、彼らはどんなつらい努力だってしただろう。私なら今でもするが。

この時代を象徴する深夜番組「11PM」をコソコソ見たり、フィンガー5の曲がかかったりといった演出も、ありがちだが楽しい。

『おっぱいバレー』は、タイトルこそ恥ずかしいが、私は世界に持っていってみんなに見せてやったらいいと本気で思う。日本人の強さ、しぶとさの源泉がどこにあるか、目ざとい海外の連中は本作の中に見出すに違いない。

なお、その答えはおっぱい……では決してない。念のため。



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