『パッセンジャーズ』80点(100点満点中)
PASSENGERS 2009年3月7日(土)より、日比谷みゆき座他にて全国ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/93分/配給:ショウゲート
監督:ロドリゴ・ガルシア 脚本:ロニー・クリステンセン 出演:アン・ハサウェイ、パトリック・ウィルソン、デヴィット・モース、クレア・デュバル

墜落事故生存者の証言が食い違う?!

この映画は、飛行機墜落事故の現場から始まるが、そのセットのリアルさはなかなかである。カナダの浜辺で撮影したというが、航空機の残骸が燃え盛るのを見つけた近所の住民は、半狂乱になって警察に通報したという。たしかに散歩中にこんなものに出くわしたら、間違いなく腰を抜かすだろう。

セラピストのクレア(アン・ハサウェイ)は、航空機事故の生存者5名の精神的ケアを任される。だがその仕事は簡単ではなかった。事故以来、異様にハイテンションで、専門家も「逆にいちばん危険だ」と評するエリック(パトリック・ウィルソン)は、やたら陽気にデートに誘ってくる。一方、他の生存者たちが行う事故時の状況は、各人まるで違っている。何かがおかしいと感じたクレアは独自に調査を始めるが、航空会社から激しい妨害を受ける。

『パッセンジャーズ』は、騙される快感を味わうための映画である。つまり、結末仰天系ミステリということだ。そういう意味では、冒頭で書いた散歩者が、もっとも幸せな本作の観客だったということもできる。

事故の真相を、ヒロインと共に推理する観客の前に、たくさんの怪しげな謎が提示される。とくにこの作品が優秀なのは、主人公がかかわる航空機事故とはまったく無関係なキャラクター、エピソードが、なぜか異様な存在感を放っている部分だろう。

それは、この仕事を請けて以来、急にフランクに接してくる隣人であったり、喧嘩中の姉となかなか連絡がつかないことであったり。どう考えても本筋とは無関係なだけに、この不気味さときたらない。

ただミステリの世界では、いかにも怪しいものは単なるミスディレクションであることも多い。さらに、見るからに伏線となりそうな物事もたびたび登場し、いったいどれが重要でどれが意味のないひっかけなのか、判別に苦しむ。

すべての謎が明らかになるラストには、真実の事故シーンが再現されるが、ここは大きな見所である。死とはつらいものなのか、それとも単なる別れなのか。

なぜだろうか、見終わったあとに、せつない幸福感を与えられる一品。飛行機に乗る予定が当分無い方に、オススメしておくとしよう。



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