『罪とか罰とか』55点(100点満点中)
2009年2月28日(土)より、シネマライズ、テアトル新宿ほか全国ロードショー 2008年/日本/カラー/110分/配給:東京テアトル
監督:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 出演:成海璃子、永山絢斗、段田安則

成海璃子にコメディは似合わないが

何事も経験、習うより慣れろというが、演劇界から映画に殴り込みをかけてきたケラリーノ・サンドロヴィッチ監督も、この3作目(劇場公開用映画として)で大きな手ごたえを感じとったようだ。

人気崖っぷちのグラビアアイドル・アヤメ(成海璃子)は、コンビニでの衝動的な万引きを見つかってしまう。そのもみ消しと引き換えに、一日警察署長をやらされるが、折り悪く重大事件が発生。本来お飾りのはずのアヤメが、なぜか捜査の指揮をとらされるハメになる。

単純なギャグ映画のあらすじに見えるかもしれないが、この脚本は実のところかなり凝っており、時系列は飛ぶわ、伏線も張ってあるわと、なかなか本格的。もっともそれは副菜のようなもの。個人的にはのっけからかまされる、「手段でなく目的としての笑い」(監督談)をこそ、大いに堪能してほしいと思う。

ナンセンスでブラックで、一般ウケは露ほども考えていない。小難しいテーマなどなく、とにかく笑わせる。

いいんじゃないだろうか。ストーリー、テーマ性、芸術性、そういうものを上手に撮る監督は腐るほどいる。いまからその領域に殴りこむより、こちらのほうがずっとこの監督に合っている。大真面目にキツいギャグをかます。演劇的でとてもいい。多数ではないかもしれないが、感性の合う人だけついていけば十分だ。

ヒロインに起用された成海璃子は、これまでこうした不条理劇に出たことがなく、当初より不安視されていた。結果としては案の定、かなりの違和感をかもし出していた。

犬山イヌコはじめ、KERA監督の間合いを知り尽くした常連キャストの中で、彼女だけが明らかに浮いている。今回ばかりは、役者としての未熟さをさらけ出す結果となった。

彼女のような美少女が変なことをやったり言ったりすれば、そのギャップは笑いを生みだす。だが、成海璃子の表情は常にこわばったままで、おそらくKERA監督の要求する演技レベルに達しておらず残念な限り。

最近は思春期の少女ならではの激太りが話題になっていたりするが、確かに久々にスクリーンで見た彼女は、顔つきがふっくらとしていた。とはいえ美少女は美少女のままである。美少女とは、脂肪への耐久力がきわめて高いのである。

これまたエンドロールの最後にオマケつき。大いに笑って、映画館を出てこよう。



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