『オーストラリア』65点(100点満点中)
Australia 2009年2月28日(土)より、日々谷スカラ座他全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/165分/配給:20世紀フォックス映画
監督:バズ・ラーマン 脚本:バズ・ラーマン、スチュアート・ビーティー、ロナルド・ハーウッド 出演:ニコール・キッドマン、ヒュー・ジャックマン、デヴィッド・ウェンハム、ブライアン・ブラウン

話題の反日描写とは?

インターネットの普及以来、映画会社は様々な気苦労を背負い込むことになった。違法ダウンロードの蔓延など、世界共通の悩みも多いが、おそらく日本独特のものとして、「反日的映画は徹底的に叩かれる」というものがある。

オーストラリア映画人が、その威信をかけて作り上げた大作『オーストラリア』も、その落とし穴(?)に見事はまりこみ、作品のよしあしとは無関係な部分で話題を呼ぶことになった。

英国上流階級のレディ・サラ(ニコール・キッドマン)は、一向に帰国しない夫に業を煮やし、その行き先オーストラリアまで追いかけていく。ところが夫の領地"ファラウェイ・ダウンズ"にその姿はなく、粗暴な管理者ドローヴァー(ヒュー・ジャックマン)がいるだけだ。性格も身分も正反対の二人は出会ったその日から反発しあうが、彼らの行く先には命がけで協力せざるを得ない過酷な運命が待ちうけていた。

オーストラリア人監督が、オーストラリア出身の大スターを使い、オーストラリアの自然や魅力を満載した歴史的ラブロマンス。いわばオージー版『風とともに去りぬ』になるはずだった本作だが、とんだところでケチがついた。

第二次世界大戦という、激動の時代を舞台にする中で、悪役となるのは当然のこと日本軍。彼らがはるばるオーストラリアまで爆弾を落としに行った、ダーウィン空爆の様子は、本作の中で迫力満点のスペクタクルとして描かれているが、その描写が問題だという。

なるほど、見ると確かに(練度が高く、統制も取れているはずの日本軍戦闘機隊が)民間人・施設を無差別攻撃しているようだし、子供たちがいる建物などを狙っている場面もある。歴史を正しく描いてほしいと考える人々にとって、お金を払って出かけた映画館でこういう場面を見せられたら、文句のひとつも言いたくなろう。

もっとも映画は教科書ではないのだから、オーストラリア人が日本人を卑しく描きたいなら、それは自由にやったらいい。トンデモがいきすぎれば、映画『パールハーバー』のように世界中から失笑を買うだけのことだ。

ただ私が思うに『オーストラリア』の場合は、正直なところ作り手の悪意はあまり感じられない。むしろ、単に無知なだけという気がする。アポリジニの扱いを見ても、同じように感じる。ご存知のとおりオーストラリア白人は、かつて原住民のアポリジニに対して筆舌に尽くしがたい虐待、殺害を行ってきた。

ところが映画『オーストラリア』に出てくるアポリジニときたら、まるで万能の超能力者。ファンタジックでミステリアスな尊敬すべき異文化の継承者、ステキ〜! というわけだ。歴史を捏造しようなどという肝の据わったやつに、こんな能天気なマネができるわけない。

他方、映画としてはよく出来ており、前半後半に分かれた二部構成は、長大な上映時間の疲れを紛らわすのに効果的。前半だけで起承転結のある一本の作品になっており、CGを効果的に使った見せ場も多い。ニコール・キッドマンのクラシックなたたずまいは、165分間ヒロインとして見続けるに値する。

相手役ヒュー・ジャックマン最大の見せ場は、水場でのヌード水浴びであろう。引き締まった肉体に頭から豪快に水をかぶる。そこはキラキラとスローモーションで描かれる。まるで洋モノエロDVDのような演出に、お茶を吹くこと確実だ。

こだわりの豪州ロケというだけあって、雄大な自然の風景にも圧倒される。スケールの大きな時間がそこには流れている。

美しい女優と男優、素晴らしい景色、そしてちょっぴりのマヌケ。『オーストラリア』は、一見の価値ある大作といえる。



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