『ディファイアンス』60点(100点満点中)
Defiance 2009年2月14日(土)より、シャンテシネ他にてロードショー 2008年/アメリカ/カラー/136分/配給:東宝東和
監督:エドワード・ズウィック 出演:ダニエル・クレイグ、リーヴ・シュレイバー、ジェイミー・ベル

ナチスドイツの手から逃れ、森に集まったユダヤ人たちの運命

イスラエルによるガザ侵攻で多数の死者が出ている今、『ディファイアンス』のような映画が上映されるのは興味深い。

聖書の出エジプトのエピソードをモチーフにしたこの「ユダヤ人受難もの」は、しかしこれまでの同種の作品とは趣が異なる。ようは過去作品の一部にある、うんざりするような被害者意識のようなものがあまり見受けられないから、そうしたものが苦手な人にもオススメできる。

1941年、ソ連領ベラルーシの森。ここには隣国ポーランドから、ナチスに追われたユダヤ人たちが多数逃げ込み、さまよっていた。自らも家族をドイツ兵に殺されたトゥヴィア(ダニエル・クレイグ)らビエルスキ三兄弟は、こうした同胞を見捨てることができず、彼らを保護しつつ森の奥へと隠れ場を探して進んでいく。だがその数は予想以上に膨れ上がり、トゥヴィアはリーダーとして大量の食料などを調達せねばならなくなる。

新ボンドことダニエル・クレイグが演じる主人公は、大勢の無力なユダヤ市民をまとめ、森の中にキャンプと称する村を建設していく。自らの手だけで小屋を立て、それで風雨をしのぎつつ、生活の基盤を作る。そうした逞しいサバイバルの様子は、純粋に面白い。過酷な冬の到来と、それ以上に恐ろしいドイツ軍の猛追。スリルを生む要素が複合的に混ざり合い、ドキドキさせる。

戦時中、ユダヤ人にビザを発給し続けた日本の外交官・杉原千畝(すぎはらちうね)や、ドイツ人ながら多数のユダヤ人を救ったオスカー・シンドラーと違い、本作の主人公トゥヴィアは自らパルチザン(武装集団)の戦士としてドイツ軍と戦った。決して美談にはできぬ、血みどろの現実がそこにはあり、それを描いているからこそ『ディファイアンス』は見ごたえがある。

たとえば、"かよわき"ユダヤ人たちがドイツ兵をリンチしたり、無関係な人間を復讐に巻き込んで殺したりといった、決して褒められぬ行動をも描いている。一方で、ドイツの血を引くある存在が、このサバイバル集団の希望の象徴になったりもする。こうした不条理、矛盾こそ、この物語が伝えようとする戦争の真理であろう。

殺されるものは、殺すものでもある。ガザで市民を巻き込む大空爆を行うイスラエル自身が、まさにそれを証明している。

悠久の歴史の流れの中でただ一点、現在の状況だけを見て被害側に肩入れするような主張、または反戦運動が、いかに自己矛盾に満ちているか、本作を見るとよくわかる。そうした意味で、とてもタイムリーな作品といえるだろう。



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