『誰も守ってくれない』70点(100点満点中)
2009年1月24日(土)より、お正月第2弾 全国東宝系ロードショー 2008年/日本/カラー/118分/配給:東宝
監督:君塚良一、製作:亀山千広、脚本:君塚良一、鈴木智 出演:佐藤浩市、志田未来、松田龍平、石田ゆり子、佐々木蔵之介

「踊る大捜査線」のスタッフが社会派に挑戦

「踊る大捜査線」のミーハーな客層に、社会派映画ぽいものを見せる。『誰も守ってくれない』が挑んだコンセプトはえらく大胆で、そしてほぼ成功している。

15歳の女子高生(志田未来)の兄が、ある日突然逮捕された。世間を騒がす猟奇殺人事件の犯人としてだ。その日から彼女の世界は一変した。押し寄せるマスコミ。際限なく広がるインターネット上での中傷、そして個人情報の暴露。そんな彼女をただ一人守る男がいた。加害者家族を世論から守り、その自殺を防ぐ非公認任務の警察官(佐藤浩市)だ。

そんな事をする警察官がいるのかと思うが、君塚良一監督は「踊る」シリーズの脚本用リサーチの過程でその存在を確信し、一度この問題を描いてみたかったのだという。つまり「踊る」にはそぐわないこのシリアスなテーマを追求するがために、このオリジナルドラマは企画された。

なかなかの意欲作と思う。少年合唱団リベラの歌だけをバックに、少女の人生が崩れ行くオープニングなどは、こいつはイケるぞと思わせるに充分。手持ちカメラを中心に、硬質なタッチで描かれる画面は、いかにも本格社会派ドラマの風格だ。

しかしながら、「踊る」の客層に向けた配慮も忘れない。オープニングの無説明ぶりとは打って変わって、本編がはじまると懇切丁寧な解説口調。相棒刑事の松田龍平はピアスにとっぴな髪型、おしゃれなコートと到底刑事には見えぬ風体で、ただただ女性客の目を楽しませる。一方、主人公を助ける木村佳乃などは、会話に意味不明なフランス語をまぜる奇天烈なキャラクター。美人でなければ変態そのものだ。

みな演技の中身はさすが社会派のそれだが、見た目にはこのようにかなりの遊び心が入っている。素人衆をあきさせぬ工夫が、随所ににみられる。

その配慮が、リアリティを追求するうるさ方の観客にとっては、物語の進行にいささかの疑念を差し挟む余地となってしまう。だが、これはそういうコンセプトなのだから仕方がない。つまるところ、初心者むけ社会派ドラマ風、ということだ。

だがその特徴は、作劇上の弱点として「いくらなんでもそれはねーよ」的ないくつもの場面を生み出してしまう。

たとえばネットで主人公少女らを中傷する連中が、ある行き過ぎた行動をとる展開があるが、これはいくらなんでも無いだろうと思う。例外的なケースとしてありえぬわけではあるまいが、基本的にネットで騒ぐ人々はインドア派。せいぜい騒ぎの現場にこっそり出かけて、後ろから写真をとるスネーク行為が関の山で、現実に暴力をふるうようなマネはしない。PC前でニヒルに祭りを楽しむやり方こそ、彼らの王道だ。

だからこの映画のような展開になると、どうも現実との乖離が気になり没頭できない。また本作のように、海外の人が多く見る映画で、しかもこれだけリアルな撮り方で作ってしまうと、「日本人てのはなんと怖ろしい人種だ」などと誤解されそうで怖い。

そんなわけで、傑作となるには力及ばずだが、それでも通常の日本映画のレベルに比すれば、なかなかの力作。多くを、とくにリアリティについて期待しすぎぬよう見れば、十二分に楽しむことができる。



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