『感染列島』75点(100点満点中)
2009年1月17日(土)より、全国東宝系ロードショー 2009年/日本/カラー/138分/配給:東宝
監督:瀬々敬久 出演:妻夫木聡、檀れい、国仲涼子、田中裕二(爆笑問題)、池脇千鶴

新型インフルエンザ感染爆発か?

最近、感染症に関する映画が増えている件について、危機管理の専門家、青山繁晴氏に聞いてみた。ちなみに氏は映画好きで有名だが、「映画界は(世の流れに)敏感なのではないか」と言っていた。ハリウッド映画業界が政治と強く結びついており、その最新情報を自らのコンテンツに生かしているのはよく知られているが、日本の映画界も徐々にそれに近づいてきたというわけか。そういう裏事情はちょいと想像しにくいが、ともあれ本作は予想以上のオープニング記録を打ち立て、関係者をほっとさせた。

私立病院の救急医師(妻夫木聡)のもとに、急患が運び込まれてくる。その予想を超えた劇症ぶりに、現場のスタッフは狼狽する。やがてWHOから専門家(檀れい)が派遣されてくるが、彼らの予想では半年間で数千万人の被害者が出るという。日本、いや世界の運命は、いまや最初の感染者が出たこの病院の対応にかかっていた。

前述の青山氏によれば、新型インフルエンザが登場すれば感染者の7割が死にいたるという。新型インフルエンザとは、従来のインフルエンザとは(名前は似てるが)まるで違うもの。鳥から人間に移り、現在はまだその次の段階、すなわち人間から人間に移るケースまではほとんど見られない。だがウィルスが変異し、人間同士で感染するようになったが最後、ワクチンが開発されるまでのおよそ半年間で、世界人類の多くが死に絶える。そういう危機は、いまやすぐそこまで迫っている。

だからこの映画が、新型インフルエンザを題材にしたのはきわめてタイムリー。たった一人の感染者が一日外を出歩いただけで、12万人に感染を広げるというパンデミックのディテールを、CGを駆使してリアルに描いている。邦画としては、いや世界的に見てもこうした作品は珍しい。ハリウッドからも即時リメイクのオファーがきたそうだ。

こうした企画を、原作ものではなく、映画オリジナルとして考えたスタッフは目の付け所がさえている。社会問題と娯楽作品を高いレベルで融合したものこそ、いまユーザーが一番求めているものだと私は常日頃から言い続けているが、本作はそのニーズに合致している。

少々お涙頂戴が目立ち、いわゆる死亡フラグが見えすぎという欠点はあるものの、無人の銀座という衝撃的な見せ場、海外にまで話が広がるスケールの大きさ等、それを補って余りある。

檀れいのような、カワイイ系熟女をヒロインにロマンス要素を入れ込むあたりも邦画にしてはしゃれているし、その相手役妻夫木聡、あるいはカンニング竹山や佐藤浩市といった脇役陣もうまい。本格的なドラマの風格がある。

青山繁晴氏の説によれば、新型インフルエンザのパンデミック(爆発的感染)は中国から始まるそうなので、本作のように日本が主戦場になることは現実にはないかもしれない。なにしろ今のWHOのトップは中国人なので、中国国内にWHOの公正な捜査の手が入ることはない。すべては隠され、実態がどこまで凄まじいことになっているか、私たちに知る手段はない。隣の国の内陸部で恐るべき地獄絵図がすでに展開されていたとしても、まったく不思議はないのだ。



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