『空へ ―救いの翼 RESCUE WINGS―』30点(100点満点中)
2008年12月13日(土)より、角川シネマ新宿ほかにて全国ロードショー 2008年/日本/カラー/108分/配給:角川映画
監督:手塚昌明 原作:バンダイビジュアル(アニメーション「よみがえる空−RESCUE WINGS」 コミックス「レスキューウィングス」) 出演:高山侑子、渡辺大、井坂俊哉、木村佳乃、三浦友和

自衛隊全面協力のレスキューアクション

この作品のアイデアの元となった、06年放映の『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』は、アニメーション作品ながら自衛隊からの全面協力があり、細緻な描写とリアリティが売り物であった。

今回の実写版も同様のバックアップがなされ、かつ"自衛隊映画"に強い手塚昌明監督(『戦国自衛隊1549』(2005)、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003))が起用された。

主演女優は、劇中の彼女と同じ航空救難隊員だった父親を持つ高山侑子(たかやまゆうこ)。訓練中に殉職した父の追悼式のため上京した際にスカウトされた、運命的とも言うべき配役だ。

こうした点を鑑みても、『空へ ―救いの翼 RESCUE WINGS―』は防衛省カラーが色濃い、その広報的役割をも担う作品といってよいだろう。

母親を救った救難団にあこがれ、自身も自衛隊入りした川島遥風(高山侑子)。航空自衛隊小松基地の航空救難団に配属された彼女は、救難ヘリUH-60Jの新人パイロットとして、今日も厳しい訓練を続けている。

若き女性自衛官の日常と成長を描く人間ドラマ。航空救難団とは、自衛隊員を助け出す任務の組織(ときには民間への救難活動も行う)であり、この映画最大の見せ場も、行方不明になったF-15戦闘機の捜索とパイロットの救助となっている。ここでは海上自衛隊の護衛艦も登場し、ダイナミックな海洋レスキュー劇を見ることができる。

出てくるのはもちろん本物の軍艦であり、飛行機であり、ヘリだから、そういうものが見たい人にはオススメだ……と書く際は、「それ以外の人には(略)」との皮肉を込めているわけだが、本作の場合もまさにそれ。

だいたい、ヒロインが悩んで泣くシーンまで、軍用機の前でやることもなかろう。貴重な自衛隊の装備品をもれなく写したいマニア心はわからんでもないが、そこまで宣伝したいのかと一般人はウンザリする。

ただ、演じる高山侑子は、撮影当時15歳にはとても見えぬ落ち着いた、かつ純朴な雰囲気が役柄にぴったり。今後の成長が期待できる逸材といえる。

アクションシーンについて。いまは客側に「どうせCGでなんでもできるんだろ」との刷り込み意識があるから、せっかく本物を写すなら「これはCGじゃないですよ」とさりげなく(しかし確実に)伝えるコツが必要となる。その工夫と研究をしなければ、本当に凄いアクション映画は作れない。そういう時代だ。

たとえばこの映画では、ローターと着陸地にある建物の余裕がたった数十センチという、実はとてつもない高等技術を現役自衛官パイロットが披露しているのだが、その"凄さ"は観客に伝わらない。

また、主要なキャスト以外の自衛官役の多くは実際の現役隊員で、その動きもプロフェッショナルそのものだが、これもアピールできていない。これはつまり、作り手に先ほど書いたような工夫が足りないということだ。いくら自衛隊が全面協力で立派な飛行機を貸してあげても、これじゃ報われない。

手塚監督は、CG映像の優れた使い手だ。だからこそ非CG映像の見せ方について、徹底的に考え抜いてほしいと思う。



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