『WALL・E/ウォーリー』85点(100点満点中)
WALL・E 2008年12月5日(金)より、日比谷スカラ座ほか全国ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/103分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ・ジャパン
監督:アンドリュー・スタントン サウンド・デザイン、特殊音声、ウォーリーの声:ベン・バート 声の出演:シガニー・ウィーバー、ジェフ・ガーリン、フレッド・ウィラード

地球に一台だけ残ったごみ処理ロボットの数奇な運命

「トロピックサンダー」の記事でも書いたが、最近はひどいネタばらしが目に付く。

だが、『WALL・E/ウォーリー』の場合は、宣伝側が自ら予告編で「事前に知るべきでない設定」を、何億円もかけて全国民へご丁寧に周知させているのだから参る。

もっとも「最大限の利益を出すため」に活動している彼らと、「作品を最大限に楽しんでもらうため」に情報提供を行う私たちレビュアーとは、方針が似て異なるのだからやむを得ないのかもしれないが。

情報格差が叫ばれる時代だが、難しいのは情報を集めることより、不要な情報をシャットアウトすることかもしれない。

荒れ果てた街で、体に「WALL・E」と書かれた一体のごみ処理ロボットが動いている。彼が風雨をしのぐ小屋には、どこか懐かしいがらくたがつまっている。かつてそれらを生産した人間たちは、今は見渡す限りどこにもいない。いったいこの星に、何が起こったのだろう。"WALL・E"はいつから、一人ぼっちでごみを集め続けているのだろう……。

セリフの一切ない、静かな映像美がしばらく続く。廃墟をさ迷うのは愛らしいロボット"WALL・E"。唯一出てくる生き物といえそうなものは、WALL・Eと仲がいいコオロギだかゴキブリだか、ちっぽけな虫けら一匹だけ。

しかしさすがは、クルマだけで郷愁ドラマを作ったピクサーアニメーション。何もしゃべれず、おまけにどう見ても表情の作りようがないこの2人(?)のコミカルなやりとりだけで、観客をぐいぐい引っ張っていく。

毎度書いていることだが、ピクサー作品のキモであるキャラクター造形の上手さ、まさにここに極まる、といった感じだ。やはり人間が描けている作品は、大人が見ても子供が見ても面白い。正確にはロボットだが……。

謎だらけの冒頭と、製作費160億円以上もぶっこんだハイクオリティのCGアニメーションに驚愕中の観客の前に、やがて一体の女の子(と思しき)ロボットが現れる。キャタピラで動き回るポンコツWALL・Eとは正反対の、流麗なスタイルのハイテクロボットだ。はたして彼女の目的は何か。誰が彼女を遣わせたのか。

これら数々の謎は、適切なタイミングで一つ一つ明かされていく。観客は一切イラつかされることなく、アンドリュー・スタントン監督(ファインディング・ニモ (2003))と脚本家チームが敷いたレールの上を、終点の号泣駅まで心地よく移動させられていく。

ただじつのところ、この終着駅にはピクサーらしからぬ詰めの甘さがあり、感動をスポイルする。たとえば人の心がどこに存在するかは科学者にとって永遠のテーマだが、多くの人は脳か、それに準ずるどこかにあると考えている。全細胞に分布するとの説もあるが、心情的にぴんとこない。だが後者の説についての言及、伏線があれば、この作品の満足度はさらにあがったに違いない。

しかし、それ以外はもはやケチのつけようがない。この冬のディズニーアニメは、本作と『ティンカーベル』の二本体勢だが、その先陣を切る『WALL・E/ウォーリー』は、間違いなくお正月シーズンのオススメ作のうちのひとつ。しかもかなり上位に位置する傑作といえる。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.