『櫻の園 -さくらのその-』65点(100点満点中)
2008年11月8日(土)より、全国ロードショー 2008年/日本/カラー/102分/配給:松竹
監督:中原俊 脚本:じんのひろあき 原作:吉田秋生 出演:福田沙紀、寺島咲、杏、はねゆり、大島優子、武井咲

中原俊監督が最高傑作「櫻の園」を自らの手でリメイク

芸能事務所のオスカープロモーションが本格的に映画参入するにあたり、幾多の企画から選んだのが中原俊監督『櫻の園』(90年)のセルフリメイクであった。担当者の中にきっとあの作品の熱烈なファンがいたのだろうと思うとちょっとおかしいが、さすがはアイドル育成のプロたち。日本の青春映画屈指の傑作に目を付けるとは、さすが侮れない。

東京の音楽学校から、故郷の名門私立女子高・櫻華学園に編入してきた女子高生の桃(福田沙紀)。お嬢様学校らしい、"伝統"という名の束縛に早速嫌気が差した彼女は、今は使われていない旧校舎の演劇部室から、チェーホフ「桜の園」の台本を見つける。かつて伝統だったこの演題は、なぜ封印されたのか。興味を持った桃は、生徒を集め演劇部の復活を試みるが……。

オリジナルを見た方はあらすじでわかるとおり、内容はまったくの別物。その意味では、リメイクと呼ぶべきではないかもしれない。

本物より本物らしい女子高生たちを、中原俊監督のカメラが追い掛け回した前作と違い、今回は出てくる少女たち皆がしっかりとお芝居をしている。つまり、ごく普通の青春ガールズムービーになってしまっている。

なってしまって、などというのは、どうしても90年版の奇跡のような仕上がりの再現を期待していた私の悪い癖だ。実際はこれだけ見ても平均点を上回る、十分素敵な一品である。とくに旧校舎が出てくるあたりからは、時代を超越したクラシックな外観の映画に様変わりし、めくるめくような中原世界観を堪能できる。

オトコが考えたお嬢様の世界、のはずが、女子高出身の女性に見せても「リアル」といわしめる。すなわち、見えない部分が"リアル"な中原演出=フィクションの魔法は、本作にも多少見うけられる。

それでも、鑑賞後に何年間も残るような強烈な切なさがこの新作からは感じられない。その理由は、演劇上映前のわずかな時間を描いた90年版と、数ヶ月にわたる「時の流れ」を追った新作の、時間の濃縮度の違いにあろう。人の心に残る青春の思い出は、どちらかというと90年版の凝縮具合に近い気がする。

映画のどこを切り取って静止画にしても美少女という、おそるべき主演の福田沙紀。東大にチャレンジするヒロインを演じた『受験のシンデレラ』(07年)同様、地味ながら存在感のある寺島咲。そして父親の渡辺謙同様、177cmの長身が魅力的な。登場する女子高生、お嬢様たちは、きわめてハイクォリティ。菊川怜、米倉涼子、上戸彩といった、オスカーの誇るスターがゲスト的出演で花を添える。

『櫻の園 -さくらのその-』は、十分見る価値のある青春ムービーだが、ゆいいつ、90年版の高品質を期待することだけは、絶対に避けて鑑賞すべし。それが、私からのアドバイスだ。



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