『七夜待』70点(100点満点中)
2008年11月1日(土)より、シネマライズ、新宿武蔵野館他にて全国公開 2008年/日本/カラー/90分/配給:ファントム・フィルム
監督:河瀬直美 脚本:狗飼恭子、河瀬直美 撮影監督:キャロリーヌ・シャンプティエ 出演:長谷川京子、グレゴワール・コラン

河瀬直美監督が長谷川京子をハダカにする

カンヌ国際映画祭グランプリ受賞監督の最新作ということで、満員の完成披露試写会場を前に、「注目度、凄いんだなと思っています」と満足げに語った河瀬直美監督。その自信満々なキャラで今後も突っ走ってほしいものだが、今回は主演の長谷川京子が公開直前に結婚を発表する話題性にも恵まれ、これ以上ないスタートを切れそうだ。

30歳の彩子(長谷川京子)は一人でタイへ旅立った。ところが言葉が思うように通じず、ホテルを告げたはずのタクシーは怪しげな森の中へ。危険を感じて逃げた先には、ゲイのフランス人(グレゴワール・コラン)が居候する現地民の素朴な家があった。

アラサーな女性が、タイの森で古式マッサージに出会い、その習得とともに心の癒しを得る物語。言葉の通じぬ人々相手に苦労するヒロインの姿は、コミュニケーション下手で悩む現代女性の投影。日常に疲れたとき、海外へ一人旅をするようなタイプの女性にとっては、理屈ぬきで共感できる作品といえるだろう。じつに女性監督らしい、うまい作りになっていると思う。

前作『殯の森』完成直後は、次作はハセキョー主演のラブコメになるなどと、冗談のような噂が流れていたものだが、出来上がってみればいつもながらの河瀬節である。ただし、セリフの聞きとりやすさはありがたい限り。

監督ご本人が女性オンリー試写会でオススメしてくれたので遠慮なく書くが、本作の男性陣にとっての見所は、なんといっても長谷川京子のエロティックな姿態そのもの。その大胆さたるや、セクシージャングル・マッサージ大作戦とでもいうべき偉業である。

暑いタイのロケではノーブラで撮影したそうだが、そのタンクトップ姿ときたら生唾もの。直接内側に手を入れて、下ムネや背中の汗をぬぐう様子は、被写体があまりに美しいので見とれてしまうはず。同じことを夏の幕張メッセでオタクの男どもがやっても、たぶん映画化はされない。美人おそるべし。

この作品が二人の初仕事となった主演女優と監督だが、いまや「直美さん」「キョーコちゃん」と呼び合うくらいで、撮影中にそれなりの信頼関係を築いた様子だ。だからこそ、ここまで踏み込んだ撮影ができたと思わせる場面が多々あり、高く評価したい。

……が、カメラの思い切りは芳しくない。せっかくハダカになっていらっしゃる長谷川さんの胸元の、あと数センチ先まで写してくれたら喜んで満点を差し上げたところ。この点につき超映画批評としては、声を大にして抗議しておく。

映画の中身は相変わらずの無説明&非論理的ストーリー展開。芸術的理不尽=河瀬ワールド全開だ。むろん、こいつを批判するのは野暮のきわみである。

おまけに今回は出演者に台本を渡さず、撮影日の朝に3行程度のメモだけ渡して、後は勝手にカメラがついていくという、いかにも河瀬直美らしい即興演出がなされた。「どこそこの駅に行ってタクシーにのること」とか、その程度の指示をもとに、どんなドラマが生まれるか。そこに興味がある人、および長谷川京子の独身最後のナイスバディを堪能したい人は、どうぞ劇場へ。



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