『リダクテッド 真実の価値』55点(100点満点中)
REDACTED 2008年10月25日、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー 2007年/アメリカ、カナダ/カラー/90分/配給:アルバトロス・フィルム
監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ 撮影監督:ジョナサン・クリフ 出演:パトリック・キャロルロブ・デヴァニー、イジー・ディアス

YOUTUBEや監視カメラ、ブログ等々の再現で描く米兵レイプ事件

『リダクテッド 真実の価値』は、誰もがビデオカメラを操り、インターネットの動画サイトを楽しむ今だからこそ出来る映像表現に挑戦した異色の反戦映画だ。

イラク戦争時のサマラ駐屯地。映画業界を目指す若き兵士サラサール(イジー・ディアス)は、持参したビデオカメラで仲間の日常を撮っている。検問担当の彼らは戦時とはいえ退屈な日々だったが、あるとき自爆テロと思しき暴走車がつっこんでくる。

識字率50パーセントの国で、ゲートに立ち入り禁止と書いて気休めとしている兵士も間抜けだが、それ以上にこの車の行動は理解しかねる。のっけからリアリティを欠いた展開にげんなり。

だがそのリアリティこそ、この映画でブライアン・デ・パルマ監督がもっともこだわった点。地元の少女を駐屯軍たる米兵がレイプした現実の凄惨なニュースを、まさに現実味をもって再現するのが本作のコンセプトだ。

そのため、ホームビデオやYOUTUBE等の動画サイト(を模した映像)を織り交ぜ、フェイクドキュメンタリーとして構成してある。

技巧派監督らしい、けれんみ溢れる手法だが、多少の真新しさはあるものの中身はぬるい。たとえばネットに溢れる首切り映像の類には、もっと無法味溢れるいかがわしさ、あるいは生々しさがあるものだ。しかしこの映画にはそれがない。端的に言ってお上品過ぎる。

中には本物の虐殺写真を写す場面があったりして、それは確かに個別で見ればインパクトの塊ではある。ただ、そうした画像には当然、キャプションも何もつかない。すると、そこにいたるドキュメンタリー風演出のうそ臭さが手伝って、結局あまり真実味を感じられない。

極端な話、この手のグロ画像の中に戦争とは無関係な交通事故の写真が混じっていても、観客には判別がつかない。検証できないということは、単なるイメージ操作用の絵でしかないわけで、結局作り物くささ、偽善性が前に出てしまう。

となると、肝心の少女レイプ事件の様子も、私などはそこに介在する監督のたくましい妄想への嫌悪感こそを感じてしまう。そういえばこの監督はベトナム戦争を舞台にした『カジュアリティーズ』(89年、米)でも、ある種の慰安婦ネタを非難していた。戦争が人間性を破壊するテーマが、よほど気になるのだろう。

本物の戦争被害者を写した場面では、訴訟を恐れた製作会社の自粛により、目線が入れられることになった。フェイク部分にはモザイクも何もないのに、真実には目隠しがなされる。つまり、真実を隠さず描けるのはフェイクの中でしかない。

メディアが抱える自己矛盾をそのまま観客にぶつけるしゃれた問題提起。目線がなかった場合に受ける印象を想像し、比べてみるのもいい。

だがいずれにせよ、こんな変化球の主張で戦が止まるわけもない。反戦映画としてはまだまだパワー不足か。



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