『僕らのミライへ逆回転』70点(100点満点中)
Be Kind Rewind 2008年10月11日(土)より、シネマライズ、シャンテ シネ、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/101分/配給:東北新社
監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー 出演:ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー・グローヴァー、ミア・ファロー

レンタル店員が超大作を激安リメイク

今週公開の映画は、どうしてこうろくでもない邦題ばかりなのだろうと頭を抱えてしまうが、中でも『僕らのミライへ逆回転』は群を抜いてひどい。私は原題原理主義者ではないから、日本公開版がオリジナルと違った題名になろうとかまわないが、この邦題で客が入るとはどうしても思えない。映画の中身がいいだけに、それはちょいと悔しい事なのである。

舞台はさびれたレンタルビデオ店。しばらく留守にするオーナー(ダニー・グローヴァー)に店を任された店員マイク(モス・デフ)は、悪友のジェリー(ジャック・ブラック)に店内のビデオを台無しにされてしまう。そこにオーナーの知り合いの女性から、ビデオを借りにくるとの連絡が。弱った二人は、なんと自分たちで『ゴーストバスターズ』を撮影してごまかすことに。

映画を愛する人々に見てほしいコメディー映画である。原題「Be Kind Rewind」は「巻き戻して返してね」といった意味。言うまでもなく、ビデオレンタル店の注意書きだ。

人差し指をくるくる回すしぐさが、プッシュホン&携帯世代の若者には「電話をかけろ」の意味だとわからない、という笑い話があるがこれも同じ。ビデオは巻き戻して返却すべし、なんてのは、DVD世代にはもはや死語。そのあたりを含めた、ノスタルジーを感じさせる題名となっている。

この映画に出てくる愛すべきバカ二人は、ダンボールやガラクタを使って、あの話題作、超大作を次々とリメイクしまくる。ハリウッドでは約10億円を下回るものを低予算映画というが、この二人の作る映画ときたら、推定製作費500円程度のものばかり。しかも客の希望はビッグバジェットのアクション映画やSF映画ばかりだから、彼らは突拍子もないアイデアで特撮シーンにチャレンジすることになる。

まさに、映画作りの原点ともいうべき精神。やむにやまれず始めた嘘っぱち映画の製作だが、いつしか彼らは「面白いものを精一杯工夫して作る」純粋な創作哲学の具現者そのものとなる。

どんな趣味でも見るより作るほうが面白いというが、ハリウッドの大作よりも自分たちが関わったオンボロ映画のほうに、町の人々が夢中になっていく展開には説得力がある。

笑って笑って最後にホロリ。王道を行くコメディとして『僕らのミライへ逆回転』は平均以上の出来。とくに、忙しくって最近の映画にはついていけてないなぁ、ってな人を癒してくれる一本となるだろう。



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