『容疑者Xの献身』40点(100点満点中)
2008年10月4日(土)日劇PLEXほか ロードショー 2008年/日本/カラー/128分/配給:東宝
原作:東野圭吾 監督:西谷弘 製作:フジテレビジョン アミューズ S・D・P FNS27社 出演:福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、金澤美穂

テレビドラマ『ガリレオ』が本格映画に

上映前にフジテレビの方が「これはドラマ(『ガリレオ』シリーズ)の映画化ではあるが、同時に立派な原作を持つ映画作品でもある。それを強く意識して作った」と挨拶してくれた。その言葉に甘え、当記事では「立派な原作の映画化」として取り扱うことに決定したが、残念ながらその目で見るとこの点数となってしまう。だが、「テレビドラマの映画版」としてならば、もう少し高い評価を与えてもよいと考えている。

花岡靖子(松雪泰子)と美里(金澤美穂)は、決して豊かではなかったが、母子で幸福に暮らしていた。ところがある日、別れた夫にアパートを突き止められ、二人ははずみで前夫を殺してしまう。途方にくれる母子の元に、靖子の勤務する弁当店の常連で隣人の、数学教師・石神(堤真一)がたずねてくる。必死に場を取り繕おうとする靖子に対し、石神は平然と「彼を殺したのですか?」と問いかける。

原作は東野圭吾。シリーズ通しての主人公で物理学者の湯川学(福山雅治)は、抜群に頭が切れる探偵役として登場する。原作では同じ大学出身の刑事が、テレビ&映画版ではその部下の女性刑事(柴咲コウ)が、湯川に難事件を相談する形でストーリーが進む。

テレビドラマで、あるいは短編集となる二冊の原作で、たっぷりこの探偵の"強さ"を知った読者(視聴者)にとって、いよいよ最強の敵の登場となる。

隣人母子が犯した犯罪の隠蔽に、もてる頭脳で全面協力する数学教師・石神。彼がいかに凄まじい論理的思考の持ち主かは、原作では通学路でホームレスを観察する冒頭数ページの中で強烈に提示されるが、映画版ではそれに代わるだけのものがなく、ややわかりにくい。

また、何の得もしないのにリスクを犯し、母子を救おうとする石神を表現するには、ハンサムな堤真一は不適格。このキャラクターは見た目上、まったくモテそうにない男でなければ成立しない。当然ラストの感動も半減する。

もちろんそんなことは、映画の専門家たる関係者は、きっと全員が理解している。なのに、こういうキャスティングをしてしまうあたりが、さすがマーケティング優先のテレビ局映画だ。

テレビ版と比べ、予算がたくさんついていると思われるが、それを航空撮影や雪山スペクタクル、こけおどしの実験場面、ヘリコプターの登場などに惜しげなく投入した姿勢も特筆に価する。ミステリ映画にそういうものを必要とする人にとっては、とっても嬉しいサービスだ。

もちろんその代償として、脚本や演出は、この上なくチープな出来となった。論理的でスリリングな原作からは、論理性とスリルが失われた。

ただ唯一、トリックと謎を号泣ラストに結びつける東野圭吾の得意技は、映画版でもそこそこ再現されている。ミスキャストではあったが、堤真一はよく役柄を理解しており演技力もあるので安心して見ていられる。また、女子高生がしのび泣く場面はさすがにぐっと来た。愛を信ずるティーンの娘は、母よりずっと強いのであった。

私は『容疑者Xの献身』を、原作を読んでいない、そして読むつもりのない人にすすめる。テレビだけ見て満足していた人ならば、そこそこ良いと感じられるだろう。そしてそんな人たちは、東野圭吾の小説版は読まないほうがいい。何もすすんで後悔する必要はない。



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