『弾突 DANTOTSU』50点(100点満点中)
PISTOL WHIPPED 2008年9月13日(土)より、銀座シネパトスほか全国順次ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/96分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:ロエル・レイネ 脚本:ジェイ・ディー・ザイク 出演:スティーヴン・セガール、ランス・ヘンリクセン、ブランチャード・ライアンf

セガール20周年記念作

映画デビュー20周年となるスティーヴン・セガールの記念作は、もはや中身を想像することさえ不可能な意味不明なタイトルを持つ、しかしそれでも何の問題もないであろう彼らしいアクション作品である。

警官の職を失ったマット(スティーブン・セガール)は、今夜もギャンブルにおぼれ負けが込んでいた。すっかり首が回らなくなった彼の前に男が現れ、マットの借金をすべて肩代わりしたと告げる。その代償として男は、法で裁けぬ悪党どもを処刑しろとマットに要求するのだった。

今回のセガールは、最初から最後までワルである。やってることはともかく、キャラクターの本質であるワルっぷりが一番の見所と言える。

冒頭に、スローモーションを多用したシリアスな銃撃戦がある。これがなかなか良くできていて、その背景は後に明らかになる。ともあれ、謎めいた雰囲気に観客はまず興味を引かれる。

それにしてもセガール映画は、中身をシリアスに作るほど笑えるのだからたまらない。たとえば、悪党がセガールに銃を向けるたびに、客席からはどっと笑いが出る。彼に銃を向けることは、どうぞ殺してくださいというのと同じ。コテンパンに負けますフラグである。客の全員が無知な悪党を哀れに思った次の瞬間、案の定彼は合気パンチでのされてしまう。

また、たとえセガールが撃たれたとしても、心配する観客は一人もいない。防弾ベストの有無にかかわらず、それが彼の戦闘能力をそぐ事は絶対にない。20年間こういうキャラクターを作り上げてきたこの役者には、心から敬意を表したい。

今回私が気に入った見せ場は、セガールが謎の男から暗殺を命じられ、やむなく実行する場面。

彼はターゲットの行動パターンを綿密に調べ、確実に任務を遂行しようとする。……が、長々とそんな調査をやったくせに、結局最後は堂々と公共の場所で、たまたま周りに居合わせた連中もひっくるめて全滅させてしまう。もちろんセガールは悪びれる様子もなく歩き去る。ぜんぜん暗殺になってないよと、みんな爆笑&大喜びである。

相変わらずのあの巨躯にブラックスーツは惚れ惚れするカッコ良さ。前回し蹴りをしかけた敵を、かまわず前方から体当たりして吹っ飛ばすといった馬力溢れるムーブも最高。たとえ45口径だろうが、あのデカい手で構えるとオモチャのように見えるいつものガンアクションもたまらない。

ラスト、最後の敵に投げかける言葉も傑作だ。ついさっきまでのその男に対する態度とのあまりの落差に、これまた笑いがこみ上げてくる。20周年記念の『弾突 DANTOTSU』は、セガール節の不滅宣言。頼もしい限りである。



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