『ヒカリサス海、ボクノ船』60点(100点満点中)
2008年9月6日(土)より渋谷アップリンクファクトリーにてロードショー 2008年/日本/カラー/117分/配給宣伝:GPミュージアムソフト/WILCO
監督・脚本:橋本直樹(WILCO代表)、脚本:橋本直樹(WILCO)、いながききよたか、阪井純(GPミュージアムソフト) 出演:仁科仁美、深水元基、松本まりか

仁科仁美が大胆演技に挑戦した初主演作

仁科亜季子の端正な横顔にかぶさるように、よく似た若い女性が現れる。本作の主演女優、仁科仁美の登場場面は思わせぶりで目を引かれる。二人は劇中と同じく実の母子。娘の仁科仁美にとっては初主演作となる。

女子大生の奈々子(仁科仁美)は7年前、幼い弟が死んだショックからいまだ立ち直れずにいる。そのせいで父母との関係がぎくしゃくしていることを、感受性の豊かな彼女は誰よりも深く理解していた。思い悩む彼女の前に、ある思い出と関わるピエロが現れたときから、止まっていた奈々子の時計が動き出す。

ある若い女性の再生と成長を描く物語。なんといってもヒロインが抱える強烈なトラウマの正体を描く場面が圧巻。具体的には弟のためにお弁当を作るところだが、このシークエンスにおける弟役(嘉数一星)の演技力、劇伴音楽との親和性などは、まれにみる出来映えといえる。

さらに、このエピソードの真相が明かされる、感涙必死の終盤の回想とあわせた二つの名場面は、それだけで劇場で見る価値があると思わせる。

もちろん、各方面で話題になっている仁科仁美の思い切った脱ぎっぷりもそれに加えるなら、もはや必見レベルといっても差し支えない。母親よりボリュームのある美乳は、親切なことに前方の様々な角度から何度も写され、ファンを喜ばせる。もっとも、そういう目的で見るにはあまりにも重く、深刻な内容だが。

仁科は実際には24歳だが、20歳の役を演じるに十分なみずみずしさを残している。父親の松方弘樹の面影を残すシャープで大人っぽい顔立ちが、心に闇をもつトラウマ少女役としては適切な老けっぷりを与えている。

初主演作でこうした質の高い映画に出られたということは、女優としてなかなか強い運勢を持っているのかもしれない。大胆演技に挑戦した甲斐もあったというものだ。



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