『愛流通センター』55点(100点満点中)
2008年7月19日(土)より、渋谷Q-AXシネマほか全国順次ロードショー 2008年/日本/カラー/83分/配給:アステア
原作:唯沢みず「愛流通センター」(ゴマブックス刊) 監督:土屋哲彦 脚本:なるせゆうせい 主題歌:「オレンジの街」森翼(PONY CANYON) 出演:足立梨花、前田公輝、入来茉里

ホリプロとケータイ小説大手サイトの連動企画

『恋空』のようにケータイ小説が映画になり、場合によっては大ヒットする時代であるが、同ジャンルの『愛流通センター』の成り立ちはかなり凄い。大手携帯小説サイト内で、なんと201万人から選ばれた原作コンテスト最優秀作品を映像化したというのだ。しかも主演は5万人以上参加のアイドルオーディションで選ばれた金の卵。莫大な数の少年少女の夢と憧憬がつまった映画というほかない。

彼氏募集中の女子高生チカコ(足立梨花)は、携帯のスパムメールに誤って登録してしまう。『愛流通センター』なるそのサイトは、失った愛を有料で取り戻すことができるという。バカバカしいと相手にもしなかったが、そんなチカコの前にセンターの営業マンを名乗る男(水橋研二)が実際に現れる。

ワンクリック詐欺をクリックしても、せいぜい頭の悪そうな支払い催促メールが来るだけなので放置しておけば良いが、生身の人間が目の前に現れるとはずいぶん手の込んだ話である。

そんな"愛流通センター"には、しかしどうやら不思議な力があるようで、彼女はそれを使ってかつての彼氏の愛情を取り戻すのだが……。というファンタジックな設定の女子高生成長ドラマ。

誰かの愛を取り戻すためには、誰かから奪い取る覚悟が必要になる。弱肉強食、一夫一妻制を採用するこの国の現実の厳しさを、このナイスな設定はうまく描いてくれそうだ──などと一瞬でも思った自分を恥じたい。『愛流通センター』はあくまでケータイ小説であり、ブンガクではない。そんな期待はするだけ野暮だ。

本作は、ホリプロタレントスカウトキャラバン(日本でもっとも有名な、アイドルへの登竜門)とのコラボ企画。よって出演者には足立梨花(あだちりか)入来茉里(いりきまり)板野友美(いたのともみ)、近藤あゆみといったホリプロの誇るアイドルが勢ぞろい。和田アキ子や、スカウトキャラバンウィナーの大先輩・井森美幸(第9回グランプリ)も特別出演の形で花を添える。ちょいと熟した花だが。

主演の足立梨花は、かつてホリプロが選び続けてきた美形で華のある本格派アイドルの系譜とは異なる、いかにもクラスに数人いそうな親しみある女の子。演技力はまだ皆無に近いが、その分彼女の"地"が出ているのではないかと思われる。これぞ新人アイドルを見る際の最大の楽しみであろう。

ほかのメンバーも似たり寄ったり。なにしろ演技云々以前に感情の起伏がなさ過ぎる。だが、街を歩いている一部の女子高生など見ると、確かにこんなイメージを纏っていたりもする。とっつきにくい感じとでもいうべきか。その分、水橋研二あたりがユニークなキャラクターを好演しており、全体的には不満はない。

一番の見所は、その水橋研二がセンターの所長からこっぴどく叱られる場面。所長を演じる青木泰都のワンマン経営者ぶりときたら爆笑確実。この年端もいかぬ子役が、この映画の中では一番の演技派だ。



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