『JUNO/ジュノ』90点(100点満点中)
JUNO 2008年6月14日(土)、初夏 日比谷シャンテシネほか全国ロードショー 2007年/アメリカ/カラー/96分/配給:20世紀フォックス映画
監督:ジェイソン・ライトマン、脚本:ディアブロ・コディ キャスト:エレン・ペイジ、マイケル・セラ、ジェニファー・ガーナー

16歳で妊娠した女の子はどんな行動をとるか?

『JUNO/ジュノ』はアメリカの映画業界にとって、間違いなく年度を代表する作品のひとつである。

わずか数館から始まった上映は、口コミや効果的なプロモーションで最終的には2千数百もの劇場へと拡大。製作費10億円足らずの低予算映画ながらその十数倍の興行収入をたたき出す作品なんてのは、さすがの米国においてもめったにあるものではない。

これはプロ野球で言えば、プロテストの補欠で一応取っておいた最低年収の選手が、いきなりホームラン王になるような抜群のコストパフォーマンス。アカデミー賞の司会者が本作をネタにジョークを飛ばした(「今年は殺人鬼の映画ばっかりだけど、10代の妊娠の話が入っててほっとしたよ」の"10代の妊娠の話"とは本作のこと)ことでもその注目度がよくわかる。

16歳のジュノ(エレン・ペイジ)は、好奇心から一度ヤっただけの同級生ポーリー(マイケル・セラ)の子供を妊娠してしまった。どう考えても育てられるはずもなく、さっさと中絶しようと病院に向かうジュノだったが……。

病院の前でジュノが出会う人物とのやりとりが実におかしい。この映画の脚本家ディアブロ・コディは個人ブログの軽妙な文章をプロデューサーに見初められてデビューした人物で、ジュノをはじめとする登場人物の会話の面白さは群を抜く。あちらのティーンエイジャーが実際にこういう言い回しをするかは知らないが、冗談と悪態の間に普通の会話が混じるような独特のテンションは癖になりそう。最初から最後まで、とにかく大笑いさせてもらった。

ただ、その長所がそのまま短所にもなっているのが残念なところ。平たくいうと"やりすぎ"で、あまりに凝った言い回しが増えてくると、若き演技派エレン・ペイジをもってしても、台本をかまぬよう必死に読んでいるようにしか見えなくなってくる。

本来背後に隠れていなければならない脚本家の姿が、すべての人物の前に見えてくる。コディさんの能力は認めるが、次はそいつを隠す事を覚えていただきたい。

それを除くとこの映画に死角はまったくない。100点をつけてもいいと、途中までは本気で思っていたほどだ。

この映画のように、人生とはコメディーであり悩みなどは笑い話に過ぎぬとの信念を私は持っている。むろん、その考えを維持するためには笑ってすむレベル以上のトラブルが起こらぬよう、万全の危機意識と備えが必要になってくるわけだが。

いずれにせよ、10代の妊娠なんてものは、コメディーの範疇として扱う方が望ましい。だが現実は、周りの大人のほうがやたらと深刻ぶって、逆にあたふたするケースが多いのだからだらしがない。大人たるもの、可愛い赤ちゃんの一人や二人、代わりに面倒みてやるよと笑って言えるくらいの度量がなくてはならぬ。

その意味では本作のジュノの堂々たる行動は痛快きわまりなく、あらゆる人々が多くの示唆を与えられるに違いない。とくに、「私生理が来ないの」といったセリフに青くなった経験がある男性は絶対にこの映画を見るべきだ。

登場人物全員がほんの少しずつ"得る"ことになるラストシーンの素晴らしさは、いくばくかの切なさと感動をいつまでも心に残す。近年まれにみる傑作の一本であること間違いない。



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