『ザ・マジックアワー』70点(100点満点中)
2008年6月7日(土)、全国東宝系ロードショー 2008年/日本/カラー/136分/配給:東宝
脚本・監督:三谷幸喜 製作:フジテレビ、東宝 キャスト:佐藤浩市、妻夫木聡、深津絵里

三流役者を殺し屋に仕立て、本物を騙す?!

三谷幸喜監督作品は、まるで蕎麦屋で出すカレーライスのようだ。辛すぎない味わいは どこか安心感を感じさせ万人に向く。最新作『ザ・マジックアワー』も、老若男女が普通に楽しめる三谷監督らしいコメディとなっている。

昭和の香りが残るどこかの街。ギャング組織のボス(西田敏行)の愛人(深津絵里)と恋仲になった事がバレた備後(妻夫木聡)は、命を助けてもらうため伝説の殺し屋・デラ富樫を連れてくる約束をする。だがそんな男の居場所など知らぬ備後は、映画監督を装い無名の役者(佐藤浩市)をスカウト。主演映画を撮るとおだててデラ富樫を演じさせるという離れ業に出る。

佐藤浩市演じる売れない役者の天然ぶりががいい。どう見たって不自然な状況なのに、すっかり映画撮影と思い込んでいるから、本物のヤクザに囲まれてもまるで動じない。それを見て「さすがは伝説の殺し屋だ」などと勝手に勘違いする本物≠スちの狼狽ぶりもまたおかしい。

まさに三谷監督流「知らなすぎた男」、シチュエーションコメディーとしては抜群の面白さ。

役者を立てるのが上手な監督らしく、佐藤浩市以外の登場人物も完璧にハマっている。カメオ出演レベルの人たちでさえそれなりに光らせる。豪華キャストを決して無駄にはしないあたりが嬉しい。

東宝の巨大スタジオを占拠した大セットは、エンドロールでその建設の流れが見られるようになっている。監督らが心からその出来栄えに満足し、愛でている様子が伺える。時代設定は現代と思われるが、どこか昔なつかしい不思議な風景。これが最後の出演作となった市川崑監督作品を中心とした、古きよき映画作品への愛情がそこここに見られる。

ブラックなもの、毒を好む人には相変わらず物足りないが、そんな人でもたまには小麦粉感たっぷりのカレーを食べたくなることもあろう。楽しく笑って気持ちよく帰路につく。ごくごく普通、当たり前の楽しい映画としてオススメしたい。



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