『パラノイドパーク』65点(100点満点中)
PARANOID PARK 2008年4月12日、シネセゾン渋谷他にて全国順次ロードショー 2007年/フランス・アメリカ/85分/配給:東京テアトル ピックス

誤って人を殺してしまった16歳少年は、その後どうするのか?

意図せず他人を殺してしまった少年の心理を描く『パラノイドパーク』は、同じガス・ヴァン・サント監督がコロンバイン高校銃乱射事件犯人への理解を試みた『エレファント』(03年)の姉妹編ともいうべき作品。

スケボー好きの16歳の少年アレックス(ゲイブ・ネヴァンス)は、アナーキーな若者が自分たちで作った公園"パラノイドパーク"に出入りするようになる。基本的にはマジメ学生のアレックスとは違う、ちょっと悪くてカッコイイ奴らがそこには大勢いた。やがて彼らと行動を共にするアレックスは、ほんの冒険心で挑んだ列車飛び乗り遊びの最中、とんでもない事件を起こしてしまう。

さて、思い出すのもおぞましい形で人を死なせてしまうアレックスだが、わずか16歳のティーンはそんな時、何を考え行動するのか。離れて背後から見つめるだけだった『エレファント』から一歩踏み込み、ガス・ヴァン・サント監督は少年の横顔をクローズアップする。

大変な事件が起きたというのに、それに呼応する登場人物の心の動きは信じがたいほど静かで冷たい。あらすじから予想するような大きな動きは何もなく、良い意味で面白さはまったくない。原作はあるが、ガス監督による改変が大いになされている。

本作で意識してみて欲しいのが撮影クリストファー・ドイルによるカメラワーク。まるでスケボーの動きのようにゆらゆらと舞う映像は、時系列をばらした構成と共に、行ったりきたりを繰り返す不安定なティーンエイジャーの心を表現しているかのよう。

この撮影監督は『恋する惑星』(94年、香港)などウォン・カーウァイ監督とのコンビで知られる名手。解釈を観客にゆだねる、いわば投げっぱなしにする本作のような映画では、「絵に物を言わせる」そのテクニックを純粋に堪能することができる。

少年少女の心に近づくガス・ヴァン・サントの試みはおおむね成功しており、小説版と違う主人公の行動にも違和感はない。さて、皆さんはどう思う? と問いかけるようなラストも悪くはない。……が、それでも今回は「別にどうでもいいよ」としか思えなかったのもまた事実。被写体に近づく監督の視点と逆に、私のそれは劇中の人物から離れるばかりであった。

とはいえ、技巧の確かさを感じさせる良作であるのは間違いない。トンネルのような配水管の向こうにあるのは出口か、それとも……。その先は皆さんの心で感じて欲しい。



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