『黒い家』70点(100点満点中)
THE BLACK HOUSE 2008年4月5日(土)お台場シネマメディアージュ、シネマート六本木他にて全国ロードショー 2007年/日本・韓国/1時間44分/配給:角川映画

自ら指を切って保険金を請求する人々

後出しじゃんけんの結果はわかりきっているという意見もあるが、韓国版『黒い家』の出来は予想以上に良いものであり、貴志祐介の同名原作のファンには(大竹しのぶ主演の99年公開の日本版でなく)こちらをオススメする。

生命保険調査員のチョン(ファン・ジョンミン)は、見知らぬ男パク(カン・シニル)から名指しで指名される。やがてその周辺で死体を発見したチョンは、あまりに不審な一連の出来事から、この事案はパクによる保険金詐欺だと確信する。しかもチョンが調査を続けると伝えると、パクは異常な嫌がらせをはじめるのだった。

原作でも映画でも、私が一番好きなのはこの前半の展開。実際に生命保険会社に勤めた経験のある貴志祐介だからこそ書ける、あまりにリアルな"異常客"の描写に背筋が凍る思いがする。

この韓国版でもそれは忠実に再現されており、最初に主人公が招待される"黒い家"の不気味さときたら、それはもう画面のあちこちに「この家の中で立ち止まるのはヤバイですよ」と書いてあるんじゃないかと思うほど。

だいたい韓国というのは、デモで日の丸を燃やしつつ自分の指を切り落としたり、ガソリンをかぶったりする情熱の国。個人的にはどこが抗議なのかさっぱりわからないが、とにかくそういう奇々怪々な事が当たり前のようにおきる。特に今は大不況で、庶民の暮らしは悪化の一途だ。

だから『黒い家』に出てくる信じがたい保険金詐欺師の手口にも、異様なリアリティを感じざるを得ない。とにかくこの映画は"ありそう"で怖い。

最近、日流といって日本の原作を韓国で映画化するのが流行だが、彼らの見る目はかなり的確というか、自分たちが作ったら絶対面白いというものを見事ものにする。こうした原作識別眼は、大いに見習わなくてはなるまい。

また、音楽や効果音、音量バランスなど音響にこだわるのも韓国流。怖いホラーは耳から。

武器を持ちながらもあまりの恐怖で足がもつれ、丸腰の犯人相手に大苦戦といった、"いかにもありそう"な展開を決してはずさぬ庶民的な演出。もしこれがハリウッドだったら、主人公が簡単に勝つヒーローものになるか、逆に犯人が化け物レベルに強くなるかのどちらかだ。

いち地球市民、同じアジア人として私は、この韓国版『黒い家』の狙いに強く共感するし、はるかに面白いと感じる。怖いものを見たい人はぜひどうぞ。



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