『プライスレス 素敵な恋の見つけ方』70点(100点満点中)
Hors de prix 2008年3月8日(土)、シネカノン有楽町2丁目、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー 2006年/フランス/105分/配給:シネカノン

『アメリ』のオドレイ・トトゥが憎ったらしい小悪魔に

『ダ・ヴィンチ・コード』のようなトンデモ映画もたまにはあるが、『アメリ』『愛し てる、愛してない...』『堕天使のパスポート』と、人気女優オドレイ・トト ゥが選ぶ作品はどれも優れたものばかり。主演最新作『プライスレス 素敵 な恋の見つけ方』も、フランス映画らしい小粋なラブコメで、私は大いに満足した。

高級ホテルで働くさえないウェイター・ジャン(ガド・エルマレ)は、あるとき自分を 大富豪と勘違いした美女イレーヌ(オドレイ・トトゥ)と首尾よく一夜を過ごす。だが、 金持ちを渡り歩いて生きているイレーヌは、ジャンの正体を知るとさっさと去ってしま う。本気でイレーヌに惚れてしまったジャンは彼女に再度近づくため、同じ職業=ジゴ ロに転職、ようやく"良きライバル"の座にまで格上げされるのだが……。

ボ〜っとした風貌ながら、なかなかキレ者な相手役を、フランスのコメディアン、ガド・エルマレが好演。小悪魔女に惚れてしまう、普通なら最悪の悲劇 をコミカルに見せ、かつロマンスにいたる過程に説得力を持たせている。

オドレイ・トトゥは、カネ至上主義のイヤ〜な女(だがどことなく悲哀も感じる)を演 じているが、男をみつめるその眼差しは、時折とんでもなく優しく慈愛に満ちている。 あんな目でみられたら、男は正直たまらない。こうした役柄は、下手な女優だったら 「どうしてあのバカスイーツに恋するのかさっぱりわからねえ」で終わってしまうとこ ろ。

喜劇としても優秀。ひねくれた笑いではないから、万人向けのハリウッド製ラブコメし か見ない人でも違和感はあるまい。しかし、随所にフランス映画らしいしゃれたやり取 り、演出が見られ、この手の小品が好きな人にもすすめられる。

中でも私が気に入ったのは、素寒貧になったジャンが最後の1ユーロコインで、イレーヌの時間を10秒間だけ"買う"場面。そしてそのコインは、二人の行く 末を象徴する素敵なシーンに再登場する。ありがちだが、じつにうまい。

着替える場面などで、天下のオドレイ・トトゥの裸をいとも普通に写しているあたりも、 大らかでほのぼのとしている。アメリカ映画だったら、芸術的な編集テクで隠すであろ うところだ。

金と愛、すなわち現実と理想を対峙させたテーマを、多少のご都合主義の力を使ってテ ンポよく見せる。互いのパトロンにばれないよう、隣り合った試着室で語り合ったり、 同じパーティー会場である人物を協力して騙す場面など、ラブコメ離れしたスリリング な局面もたくさんあり、楽しめる。

いい悪い以前に、好きか嫌いかを語りたくなる映画だが、私としてはかなり好みのタイ プだ。駄作凡作ばかりに飽き飽きしていたころ、たまにこういう作品に出会うと、心底 ほっとする。



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