『アメリカン・ホーンティング』40点(100点満点中)
AN AMERICAN HAUNTING 2008年2月23日(土)よりシアターN渋谷にて戦慄のレイト・ロードショー!! 2005年/アメリカ/83分/配給:インターフィルム

米国公認のポルターガイスト実話

アメリカには、テネシー州中心に語り継がれるベル・ウィッチ事件という魔女伝説がある。彼らキリスト教徒にとって"魔女"とは、その信仰を打ち破られるトラウマ的恐怖の対象。中でも、多数の記録書物が残るこの事件だけは、確実な実話として別格扱いされているという。日本ではオカルトファン以外誰も知らないが、オスカー女優リース・ウィザースプーンの製作中の新作でも、この事件が扱われているくらいだから、あちらではメジャーな怪談のひとつといえるだろう。

『アメリカン・ホーンティング』は、この伝説を実話として描く恐怖映画。観客を驚かせるホラームービー的仕掛けも多いが、全体的には再現ドキュメンタリーのごとき、生真面目なつくりになっている。ああ、アメリカ人は本気でこの話を怖がってるんだなあと、彼我の宗教・民族的差異にまずは感心。

テネシー州の古い屋敷。一家の娘ジェーン(レイチェル・ハード=ウッド)は、毎夜悪夢にうなされていた。心配する母は、あるとき屋根裏から発見された古い手紙の内容に驚く。そこには1818年当時、この家の主人だったジョン・ベル(ドナルド・サザーランド)の娘(レイチェル・ハード=ウッド/二役)が、同じような目にあった顛末が詳しく綴られていた。

ここからは、1818年のこの家の模様を中心に話は進む。家具などが勝手に動き回るポルターガイストほか恐ろしい怪奇現象の数々が、現代の映画らしくVFX技術の下支えのもと表現される。

ところで我々映画関係者は、地下鉄やタクシーを駆使して秒単位で試写会場を移動することもあり、一般のお客さんのように鑑賞前に心の準備をすることがなかなかできない。私もこの映画が始まったとき、まだ頭の中は"対ホラーモード"に入っていなかった。そのため、予期せぬタイミングでやってくる最初のショックシーンで心臓が破裂寸前に陥った。映画館で見る人、およびホームシアターで音量を大きくしている人はこの映画、のっけから"来る"ので要注意である。

『エクソシスト』(73年、米)から連なる美少女憑依ものでもある本作。主演のレイチェル・ハード=ウッドは、霊から執拗な攻撃をうける姿を全身で熱演。ただ、(ルックスは文句なしなれど)怖がる演技はやや単調か。

魔女と噂される隣人とのトラブルのせいで、不当な怪奇現象に悩まされる一家の父。シシー・スペイセク(『キャリー』(76年)主演でホラーファンには知られる)演じる妻とともに、愛娘を守るべく屋敷の呪いに必死に抗う姿が感動を呼ぶ。ただし、くれぐれも「引っ越したら?」は禁句である。

ベル・ウィッチ事件は、アメリカでは20ドル札の肖像にもなっている第7代大統領アンドリュー・ジャクソンが自ら調査団を出し、実際に怪奇現象に遭遇した報告書を残している。ジャクソンはこの調査体験のあと「この恐ろしい魔女と戦うくらいなら、英国軍と戦争したほうがマシだ」と語ったという。アメリカ大統領は昔から愉快、いや有能誠実な人材揃いである。

ベル・ウィッチ事件に興味がある人のみを対象とするため、日本では絶対数が少ないと思われるが、堅実なつくりのオカルト映画として、お好きな方なら必見の一本といえる。



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