『ラスト、コーション』75点(100点満点中)
Lust,Caution/色・戒 2008年2月2日、シャンテシネ/Bunkamuraル・シネマ/新宿バルト9/TOHOシネマズチェーン他全国拡大ロードショー! 2007年/中国、アメリカ/158分/配給:ワイズポリシー

過激な濡れ場が話題

『ブロークバック・マウンテン』(05年、米)でアカデミー監督賞を受賞した台湾の人気監督アン・リーの最新作は、ある事情により世界中で物議をかもすことになった。

舞台は1942年、日本占領下の上海。女子学生ワン(タン・ウェイ)は、思い人のクァン(ワン・リーホン)に感化され、過激な抗日運動に身を投じていく。やがて彼女は日本軍と通じる特務機関長、イー(トニー・レオン)を暗殺するため、ハニートラップを仕掛けるよう言い渡される。だが、二人はやがて本当に惹かれあってしまうのだった。

監督にとっては、前作に引き続いての禁断の愛もの。公開各国で、その激しいラブシーンが話題になっている。冒頭に書いた"事情"とはこのことで、たとえば中国では7分間もカットされ、政府が国民に「こんなHの仕方をマネしちゃだめよ」と異例の呼びかけを行った。ノーカット版を見たくて台湾まで出かけた猛者も少なくなかったそうだから、中国人のスケベ根性恐るべし、である。

そしてわが日本でも、性描写が過激すぎるということで6箇所が修正されたという。そういえば私がみた試写でも、たしかに何箇所かスクラッチ修正がなされていた。次の休みは台湾旅行にいくとしよう。

さて、物語はフツーの女子大生が、友人たちに流されるまま抗日運動なんてものを始め、泥沼にはまりこんでいく悲劇。色仕掛けする相手と本気の恋愛関係になってしまうのもそうだし、若者グループが本物の過激派である抗日組織のジジィたちに、結果的に利用され悲惨な末路をたどるのもそうだ。それにしても、プロ活動家に振り回されるサヨク学生のなんと悲惨なことよ。

この映画にはいくつかの愛が描かれているが、そのベクトルの力学を描くため、この長い上映時間は有効に機能した。重厚感あるセットなど美術面も含め、細部にこだわったアン・リーの演出は、結末のせつなさに集約され、なんともいえない極上の後味を残している。

最後のシーンで見つめ合う"二人"の表情と、その背後で同じ目にあう人物たちのそれとのギャップは、彼ら二人の関係の複雑さ、そして悲しさをよく表している。私はこのシーンでの、男のほうの表情にいたく感動した。哀れだが、どこか共感できる気がしたのだ。

さて、最後に問題の過激シーンの数々について。台湾の映画賞で新人賞を受賞したタン・ウェイは、腹筋浮き出るスレンダーなボディながら、熟女好きをもうならせる生々しいお体を、惜しげもなく披露している。脱ぐ前は10〜20代、脱いだ後は30〜40代といった感じで、一粒で二度おいしい女優といえるだろう。こうしたギャップを好む男性には、とくにおすすめしておく。そんな彼女が頑張った濡れ場には、妙な体位が多いのも特徴的。繰り返しになるが、マネしちゃいけないらしい。

ヒロインのかなしげな表情と、それにかぶさる映画音楽のメロディがいつまでも心に残る。いい映画をみたという気になれる一本。今週はこれをすすめておきたい。



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