『SS エスエス』35点(100点満点中)
2008年1月12日より新宿トーア他ロードショー 2007/日本/100分/配給:リベロ

地方在住の人にすすめたい日本製カーアクション

クルマ映画というものは、えてして大都市ではヒットしない。しかしシネコンが普及し、都市部の興行比率が相対的に下がっている今日では、地方で根強い人気を誇るこのジャンルは、製作者にとって見逃せない。最近この手の映画が多く公開されるのはそれが理由だ。映画会社の人に聞いた話では、レンタルなどDVDの稼働率も高いという。

舞台は箱根、夜は若者たちがタイムアタックを繰り返す熱いレース場と化す峠道。ここにある夜、三菱・スタリオン4WDラリーに乗った中年男が現れ、記録を塗り替える。この男に興味を持った自動車評論家の栗原(遠藤憲一)は、愛車ポルシェ・ケイマンで現地を訪れ、ジャッキーと呼ばれるそのオヤジがかつて自分と因縁のあるダイブツこと大佛(おさらぎ)(哀川翔)であることを知る。

『ビッグコミックスペリオール』で連載されていた、東本昌平の原作漫画を実写映画化。主人公がいわゆる中年オヤジ二人で、その因縁と友情、復活に光を当てた点が特徴的だ。演じる二人もなかなかカッコよく、若者たちの中に入っても違和感がない。あるいはMEGUMIをはじめとする周りの若い連中が、そろってみなテンションが低いため、ムードが統一したというべきか。

三菱・スタリオン4WDラリーなど、マニアックな登場車種やラリー競技について丁寧に解説するくだりは、クルマ好きならニヤリとしてしまうところ。映画好きにとって三菱・スタリオンといえば、「キャノンボール2」でジャッキー・チェンが乗っていた車だ。だから箱根の走り屋たちも、これに乗る謎のドライバーのことをジャッキーと呼ぶわけだ。

こうした見栄えのする車がピカピカの状態で登場するのは嬉しい限りだが、映画はことさらキレイに撮ろうという気はないようだ。レースシーンの多くはどんよりした闇夜で、流行のクイックな編集やドリフトもなし。カメラはただ後ろをついていき、のんべんだらりと写すのみだ。

バックに流れる音楽もゆるいもので、レースを盛り上げようという雰囲気はまったくない。ポルシェが走ろうとインプレッサが爆音をあげようと、このダラダラ感は変わることがない。

このテンポは、私のようなせわしない東京人には、少々いらいらを感じさせる。しかし、考えてみれば公道レースなどというものは、競技車が戻ってくるのを寒い中、みんなでダベりながら山の中でのんびり待っているのが普通なわけで、そういう意味では現実に忠実とほめるべきだろう。

そう考えるとこの『SS エスエス』は、地方のクルマ好き向けのマニアックなカームービーとして、なかなか悪くない。可能ならばこういう映画をドライブインシアターで上映したら、きっとムードが出ていいのではと思う。



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