『ザ・シンプソンズ MOVIE』75点(100点満点中)
THE SIMPSONS MOVIE 2007年12月15日、シネマメディアージュほか全国ロードショー 2007年/アメリカ/上映時間:1時間27分/配給:20世紀フォックス映画

アメリカ史上最長寿、ブラックな大御所アニメ

ザ・シンプソンズといえば、日本でもC.C.レモンのCMや衛星放送でおなじみの、アメリカ史上最長寿アニメ(1989年から放映中)。なぜか黄色いシンプソンズ一家の、人騒がせな日常を描いたブラックコメディーだ。なんとなく意外な感じがするが、今回が初の映画版となる。

舞台はアメリカの郊外、スプリングフィールド。シンプソン家の父ホーマー(声:所ジョージ)は、かわいそうな境遇のブタを拾って飼い始める。だが、彼の後先考えぬテキトーな行動が、やがて雪ダルマ式に問題を膨れ上がらせ、街に殺人的な環境破壊をもたらしてしまう。怒り狂う住民から逃げ出し、アラスカへと向かう一家だが、やがてファミリーの絆に亀裂が生じ……。

『ザ・シンプソンズ MOVIE』は、日本放映版をものの見事に無視した声のキャスティングにより、ファンから猛烈なブーイングを浴びている。私が見たのは幸い字幕版だったので良かったが、オリジナルキャストを期待する子供らが何も知らずに別の声を映画館で聞いたら、さぞがっかりするだろう。

このガッカリ具合は、経験者でないとわからない。かつて私も、憧れの少女との初ドライブ用に買ったオムニバス音楽CDが、かけてみたら本物とは似ても似つかぬ企画バンドによるもので、大恥をかいた経験がある。作品に対する思い入れの強い人にとっては、そのときの私の落胆以上のものがあるだろう。

とはいえ映画会社から見れば、いかにアメリカ最強アニメ『ザ・シンプソンズ』とはいえ、日本では在京地上波から全く相手にされぬ弱小コンテンツにすぎない。だがそれでも、有名お笑いタレントをズラリと声優陣に並べれば、彼らの番組で扱ってもらえる確率が高まる。ファンの裾野を広げ、商売として成功させるための、これも必死の策なのだ。この情報化社会では、どんなに質が高いソフトでも、人々に知られなければ存在しないも同じ。彼らにまったく理がないわけではない。

ただ、これは肉を切らせて骨を断つ……というより、ときには骨まで粉砕してしまうリスキーな手段であることを、映画会社は理解すべきだ。インターネットが発達した現代では、既存ファンの結束力はとても強く、その声を軽視すべきではない。だいたい、これまでいい仕事をしてきた声優たちに失礼だ。

さて、映画の内容だがこれはもう大満足。この作品らしい社会風刺あり、大作のパロディや大物ゲスト(?)あり、映画らしいアクションもありの満艦飾。あらゆるタブーをかすめつつハイスピードで展開し、笑いと涙で綺麗にまとめあげる。

個人的には、赤ちゃんを殺しまくるゲームを赤ちゃんが楽しんでいる所や、ミサイル攻撃ボタンが二種類あるシーンなどがブラックで気に入った。ほかにも単なるドタバタなど笑いのバラエティは多く、画面の色彩感覚同様じつに華やかだ。

シリーズを初めて見る人にも大いにすすめられる、爆笑の一本。大人だけで見に行っても、もちろんOKだ。



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