『スマイル 聖夜の奇跡』70点(100点満点中)
2007年12月15日、全国東宝系でロードショー公開 2007年/日本/カラー/124分/配給:東宝

キテレツなのに引き込まれる、少年アイスホッケー映画

アイスホッケーを題材にしたスポーツ映画である本作は、原作および監督の陣内孝則らしさが良いほうに出た、個性的で楽しい一本となった。

都会でタップダンサーになる夢が破れた修平(森山未來)は、恋人(加藤ローサ)の待つ北海道にやってくる。早速プロポーズするも、彼女の父が許してくれない。必死に食い下がった結果、父親が所有する少年ホッケーチームを優勝させたらOKとの条件を得る。が、チームはいまだ未勝利の弱小で、修平はスケートさえすべれぬズブの素人だった。

乱暴もののフィギュア少女や、すぐに足を"滑らせて"負ける少年力士など、一芸に秀でた逸材(?)を次々スカウトしたり、まったくの畑違いぶりを逆手に取った奇策により、チームが生まれ変わる変化球中心の展開。よって、努力と根性で勝ち上がるスポ根の王道を期待する人には向かない。

しかし、クリスマスソングやタップダンス、少年少女の淡い恋、泥臭いギャグ等々を織り交ぜたライト感覚は、それなりにバランスが取れている。音楽はもちろん、青春時代の熱さ、若さ、そして笑いという陣内孝則らしさを迷いなく前面に出した作風は好ましく、見ていて元気が沸いてくる。ホッケーチームの面々は、演技経験のない素人選手ばかりなのだが、俳優としての経験により自ら演技指導できるという強みもあってか、監督としての自信が感じられる。

だいたい、森山未來コーチが試合中にひたすらベンチでタップを踊りまくっている試合風景など、普通に考えたらバカ映画である。しかし本作では、どう考えてもありえないそんな絵にさえ違和感がない。つまり陣内孝則監督の奇天烈な世界観が、完全に確立してしまっているのである。これに入り込める人なら、それなりの感動と痛快感を味わえるはず。

見所の多くを占めるホッケーシーンも、邦画としてはなかなかのレベル。子供たちは何しろ本物の選手なので、動きに嘘がない。これがもし俳優にホッケーをやらせる場合、高度な編集および撮影技術のフォローが必要になるわけで、演出する側にとってはハードルは高い。選手に演技を教えるほうを選んだのは、プロの役者でもある陣内監督にとっては必然だったろう。もちろん、それが正解だ。

子供たちの中には、今後も役者としての活動を希望する者が何名かいるが、個人的にはチナツ役の江口千夏は将来有望と見た。魅力ある顔立ちをしているし、その立ち居振る舞いは、大画面で見る観客の心に残るものがある。

ヒロインの加藤ローサはお人形のように飾ってあるだけだが、コメディパートでキラリと光る演技を見せる。彼女にはコメディエンヌとしての天賦の才があると、私はずっと思っている。完璧なまでにかわいい顔をしたこの女優を、気の毒なくらいいじくりまわしたら、さぞいい反応をするに違いない。

『スマイル 聖夜の奇跡』は、決して本格的なスポーツムービーではなく、むしろ陣内孝則らしい映画というべきだが、ファン限定にとどまらない普遍的な面白さも兼ね備えている。見る際は、一秒でも早く彼の独特の世界に入り込んで、思い切り楽しんでしまうと良いだろう。



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