『XX エクスクロス 魔境伝説』70点(100点満点中)
2007年12月1日、全国東映系にてロードショー公開 2007年/日本/89分/配給:東映

スリラーではなく、天然ギャグ映画

アクション映画の名手、故深作欣二の息子、健太監督は、真面目に作ってもカルトやギャグにしてしまう、ある種の天然監督だと私はずっと思っていた。とくに前作『スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ』は、記録的大コケではあったものの、バカ映画ギリギリのアクション映画としてなかなかの出来栄えであり、彼の"才能"を生かすにはやはりこの道だなと予感させた。この新作『XX エクスクロス 魔境伝説』は、同じ娯楽映画としてさらに良い出来で、その成長ぶりは嬉しい限り。

親友の愛子(鈴木亜美)に誘われ、ひなびた温泉地、阿鹿里村(あしかりむら)を訪れた女子大生のしより(松下奈緒)。彼氏の浮気で傷ついた心を癒すべくやってきたが、村人の様子はただただ不気味。しかも、部屋の押入れで拾った携帯の通話相手は、「早く逃げろ! 脚を切り落とされるぞ!」と不気味な警告を叫び続けるのだった。

のっけからエンジン全開。わけがわからぬ風習と信仰にとりつかれた不気味村人からの、ヒロインの逃亡劇が始まる。やがて親友と思っていた愛子に不審な点がみられたり、かと思いきや、突然愛子視点の物語へ急変したりと、数章立てのミステリホラーとして、この上なくハイテンポな一品。怪しげな謎が徐々に(といってもかなりの速度で)明らかになるが、先を読むのが困難なので最後まで楽しめる。話の全体像がなかなか見えてこない点も、余計に興味をそそられる。

いまどきの女子大生らしく、携帯電話をひっきりなしに使う展開も新鮮でいい。親友の安否を確かめたり、離れた外部にいるオタク友達(中川翔子)に真相解明のための調査をしてもらったり、はたまた武器として使ったり、なにより最初にかけてきた「謎の声」と協力して村から脱出を図ったりと、じつに忙しい。

序盤から舞台世界の構築を丁寧に行ったおかげで、後半以降の荒唐無稽な展開をきっちり枠内に収める、にかわの働きをしている。結果、全体のまとまりがよくなった。

とはいえ、これを本格ホラーまたはスリラーとしてみるのは無理無謀。突然の大音響でビックリさせるようなシーンは多々あるものの、狂った村人の様子などが、演技というよりコントになってしまっており、見ていて苦笑が絶えない。まるでドリフ大爆笑のような白塗りメークにオーバーアクト。もはや、笑いを取ろうとしているとしか思えない。

普通の女子大生のはずの鈴木亜美が、殺人鬼と化した小沢真珠に追い詰められ、なぜかそこに落ちているチェーンソーで対抗するあたりも爆笑。その小沢が武器として持つ全長1m超のハサミにいたっては、まるでひどい冗談である。この、かつての清純アイドルの怪演ぶりには驚かされるが、殺す相手を追いかけている間に、いつの間にかゴスロリの衣装がえをやっていたりするので細部まで見逃せない。

相変わらずの知的美人、松下奈緒うそ臭い清純派ぶりもまことに味わい深い。とくに時間軸を何度も戻って視点を変えていく構成のため、基点となる入浴シーンがそのたびに出てくるのは嬉しい限り。お湯から立ち上がった際、その痩せた長身が、体にはりついた薄いタオル越しに確認できるサービスショットはなかなかのもの。

この温泉シーンでは、鈴木亜美の意外と大きな胸のふくらみを上から狙うカットなどもあり、深作監督はいつからこんなにエロく女性を撮るようになったのかと感心させられた。ホットパンツから丸出しの鈴木亜美の太ももを、裏側から狙うショットなど、フェチズムを大いに感じさせる生々しい場面もいくつかあり、高く評価したい。

いずれにせよ、なんとなく監督だけは大真面目に作っていそうな空気が漂っているあたりが、本作最大の特徴であり魅力といえる。なんといってもバカ映画は、狙って作ると鼻につくものなのだから。

ヒロイン3人?+しょこたんも、誰一人女子大生のイメージからはほど遠いものの、個性をうまく引き出されて輝いている。

まとめとして、これは久々に楽しい映画であった。とくに主要キャストにお好みの女の子がいる人は、それ目当てで出かけたとしても、映画自体も意外な掘り出し物として記憶されることになるだろう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.