『フライボーイズ』80点(100点満点中)
Flyboys 2007年11月17日 シアターN渋谷、ユナイテッドシネマ豊洲ほか全国順次ロードショー 2006年/アメリカ/138分/配給:プレシディオ

往年のヒコーキ映画の魅力を、最新の映像技術で

第一次世界大戦のころ、かたくなに中立を守っていたアメリカ合衆国の中に、様々な理由でフランス軍に参加した若者たちがいた。彼ら義勇軍の中には、当時まだ発明されたばかりの航空機のパイロットとなったものもおり、ラファイエット飛行隊と呼ばれ活躍した。

『フライボーイズ』は、そんな実話をもとにしたスカイアクション&歴史ロマンであり、独立系の作品でありながら製作費70億円という、堂々たる体躯の大作だ。

1916年、ドイツと激戦を繰り広げるフランス軍の宣伝映画に触発された米国人青年ローリングス(ジェームズ・フランコ)は、フランス空軍に志願。彼はテキサスのカウボーイだが、ある理由でちょうど故郷を離れざるを得なかったのだ。

現地フランスには、同様のアメリカ人が多数いた。華々しく活躍する軍人一家の中で孤立していた気の優しいジェンセン(フィリップ・ウィンチェスター)や、黒人の自分を差別せず、プロボクサーとして活躍の場を与えてくれたフランスに恩返ししようとするスキナー(アブダル・サリス)など、それぞれ複雑な事情をもった男たちは、フランス人司令官のセノール(ジャン・レノ)の元、意気揚々としていた。だが、そのとき彼らはまだ戦場の現実を何一つわかっていなかった……。

20年くらい前までは、複葉機が活躍する映画をよく見かけたが、最近はあまりない。だが、プロペラ機の遅い速度は、映画的には「一スクリーン内に多数の機体が乱れ舞うスペクタクルシーン」を作れるという、絶対的な長所になる。

そしてその撮影には古い歴史があり、技術としても成熟している。加えて今ならVFXという名の打ち出の小槌も使える。ただでさえ複葉機アクションの楽しさ、美しさには時代を超えた普遍性がある(1920年代の飛行機映画を今見ても新鮮な驚きがあるくらいだ)のだから、21世紀の今作って面白くないわけがない。そこに目をつけたプロデューサーのディーン・デヴリン(セルラー (2004)、インデペンデンス・デイ (1996)など)はさすがに鋭い。

本作では、新米飛行気乗りたちの訓練風景など、きっちりと時代考証したディテールをじっくり楽しめる。木でできた(今で言う)シミュレーターでの地上訓練や、模型飛行機を後方から移動させ全方位視界を会得させるなど、航空機マニアでなくとも新鮮で興味深い。

飛行場面は横長のシネスコ画面との相性が最高で、多数の同時離陸シーンなどは感動的なまでに美しい。ドッグファイトの迫力に関しては言わずもがなで、CGによって機銃の軌跡まで表現され、戦場の恐怖感と緊迫感を視覚に訴えかけてくる。

特筆すべきは、それらが単なるドイツ対フランスの集団戦になっていないこと。この時代にはまだ、正々堂々と一騎打ちを挑む騎士道精神が残っていたが、本作の空中戦はそれをしっかりと表現している。たとえばある撃墜王の名前は敵軍にも知れ渡り、一種の敬意すら持たれていたが、因縁あるその相手との対決は、まるで互いの複葉機、三葉機自体に表情があるかのよう。これは、ロックオン⇒トリガー引いてハイおしまい、のジェット戦闘機同士の戦いでは絶対にできない芸当。これこそが、航空機アクション真の醍醐味であろう。

なんといってもトニー・ビル監督は本物の曲芸パイロットであり、実機による飛行映像の多用はもちろんのこと、パイロット役の出演者たちには飛行訓練まで施した。スパイダーマンの親友役で知られる主演のジェームズ・フランコなどは、実際に飛行ライセンスまで取ったというから大したものだ。

ただ本作はフランス・アメリカ合作で、ラファイエット戦闘機隊として散った若者たちの勇気を称えるコンセプトだから、戦争を公平な視点で見たい人や反戦主義者にとって承服しがたい部分も多いだろう。

なにしろドラマ部分はロマンスあり、友情、師弟愛ありと国策映画ばりの直球真っ向勝負。テストステロン豊富な男たちが熱くなれる要素が満ち溢れている。

メジャー資本のハリウッド映画ではないから、ジャン・レノ以外有名スターは出ていないにも関わらず、キャラクターもしっかりと立っている。演出がしっかりしている証拠だ。

戦争の実話を美化して描いたこういう作品を「ロマン溢れる」と形容するのは、いささか不謹慎とされる時代ではあるが、あえて言いたい。『フライボーイズ』は男を奮い立たせる熱いものが詰まった映画であり、やはりそれはロマンと呼ぶほかない代物である、と。



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