『オリヲン座からの招待状』40点(100点満点中)
2007年11月3日(土)全国ロードショー 2007年/日本/116分/配給:東映

『ALWAYS 続・三丁目〜』に対抗しようとしても無理

東宝による横綱級の話題作『ALWAYS 続・三丁目の夕日』に対し、ライバルの東映はなんと同じ昭和30年代を舞台にした浅田次郎の感動小説『オリヲン座からの招待状』映画版を同日公開でぶつけてきた。『ALWAYS』ほどではないにしろ豪華セットやVFXで当時の街並みを再現し、真っ向対決の構えである。

……が、この時点ですでに大間違い、敗退決定である。原作は99年に映画化されヒットした『鉄道員』のそれと同時に収録された短編で、これは本来、静かな小品として映画化すべき素材だ。この映画版のように、とにかく大作になりたくて仕方がない、といったやり方では生きるものも生きてこない。

宮沢りえや加瀬亮といった主要な役者たちも、むしろそういう作品に向く才能であり、その演技特性と、映画が目指す"格"とのちぐはぐ感は否めない。

そもそも短編小説を長編映画、まして大作風味に仕立てるのは、そう簡単なことではない。『鉄道員』が成功したのはむしろ例外と見るべきであろう。

物語は、良枝(樋口可南子)が幼いころ遊び場のように出入りした古い映画館『オリヲン座』閉館の知らせを受け取るところから始まる。同じ思い出を持つ夫(田口トモロヲ)とは離婚寸前だったが、彼女は二人で最終興行に出かけようと誘う。かつて二人を暖かく迎えた若き映画館主(加瀬亮)は、先代の死後、その妻トヨ(宮沢りえ)を寝取ったなどと陰口をたたかれながらも、映画斜陽時代の困難をトヨと二人で支え続けてきた男だった。

映画館最後の日を迎えた現代と、昭和30年代の若き登場人物たちの交流を描く2つのパートから成るせつない感動&純愛ドラマ。映画をこよなく愛した男たちと、それをひたむきに支え続けた女の物語といってもいい。

映画『オリヲン座からの招待状』のまずいところは、「それではお涙ちょうだいいたしやす」とでもいうべき腰の軽い演出にある。いい話だが、その感動の質はチープだ。

原因の一つは、タイトルにもある映画館のオリヲン座と、そこでかかる"映画=シャシン"の存在を前面に出しすぎていること。3人プラス2人にとって、そこは確かに人生の重要な舞台であったろう。しかし、それがすべてというほど人間の一生は薄っぺらいものであるはずがない。この作品からは、"オリヲン座と映画"の外で5人が生きた"時間"が感じられないため、ドラマにまるで深みがない。

『無法松の一生』(阪妻版)をはじめとする古典的名作の引用が多すぎるのも、安易に過ぎる。これらの名場面が流れれば流れるるほど、本作との映像パワーの圧差を意識することになり、逆効果でさえある。

あなたがもし相当な自由時間がある50代以上で、暇つぶしにさえなればいいというならあえて反対はしない。だが、劇中の映画館でかかる名作の方をむしろそのまま流してくれよ、と思ってしまう可能性はきわめて高いと警告しておこう。



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