『ディテクティヴ』40点(100点満点中)
Until Death 2007年9月29日、銀座シネパトスほか全国順次ロードショー 2006年/アメリカ/113分/配給:アートポート、AMGエンタテインメント

ジャン=クロード・ヴァン・ダムがあんな姿に

ジャン=クロード・ヴァン・ダムといえば、レンタルビデオ店のヒーロー。わざわざ電車に乗って映画館に出かけてまで見たいわけではないけれど、一杯引っ掛けての帰宅途中、ビデオ店で何を借りていいか選ぶのも面倒になったとき、なぜか目に入ってくる男である。苦虫を噛み潰したようなその顔をブラウン管で眺め、回し蹴りのひとつも出てくるころにはこちらもグッスリ眠っているという、そんなB級アクション映画ばかりを作り続ける男。独身サラリーマンの映画ライフには欠かせない存在といえるだろう。

そんなヴァン・ダムも、はや46歳。そろそろ蹴りの軸足もおぼつかなくなってきた。この年代で鮮やかな後ろ回し蹴りを出せるのは世界広しといえど佐山サトルくらいなものだから、それもやむを得まい。そこでこの新作では肉体アクションを抑え、弱さを前面に出すという、かなり思い切ったイメージチェンジに挑戦した。

麻薬課の刑事ストウ(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)は、かつての同僚でいまや犯罪組織のボスであるキャラハンをあと一歩のところまで追い詰めたが、一瞬の判断ミスで取り逃がし、しかも仲間を失ってしまう。署内では完全に孤立し、愛想をつかした妻も別の男の元に去った。そんなストウの捜査は、徐々に非情さを増していく。

見始めると、ヴァン・ダムの過去作に慣れた人は微妙な違和感を感じるだろう。これまでも、陰のある役柄は何度もこなしてきた彼だがだいぶ趣が違う。まず人間味というものがないし、観客の同情を誘うだけの魅力もない。アクションドラマの主人公ながら、まったくもってイヤなヤツなのだ。

そして、そこに衝撃の展開が訪れる。あのヴァン・ダムが、とんでもない運命に巻き込まれ、みじめでみっともない姿となる。しかし、その体験を経て主人公は生まれ変わる。その後、いよいよ正義の自動拳銃を握ってのガンアクションシーンとなる。

ヒロイックなアクションスターという衣を脱ぎすて、こうした役柄を演じることによって、ヴァン・ダムは演技派俳優としての次なるステージを目指すつもりなのか。スタローンやセガールといった肉体派が、年齢を気にせず自らの原点に堂々と立ち帰っているいま、彼がもがき苦しむ姿は映画の中とはいえ現実を想起させ痛々しい。

個人的には、ジャン=クロード・ヴァン・ダムには今後も変わらずにいてほしいと思う。ソファに横たわりながらのんびり見るには、彼の映画はぴったりなのだ。……っと、これは新作紹介だからそういうほめ方はまずいか。ともあれ、渋さ全開の犯罪映画『ディテクティヴ』。一味変わったジャン=クロード・ヴァン・ダムを味わいたい人は、たまにはお近くの映画館で。



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