『プラネット・テラー in グラインドハウス』70点(100点満点中)
Robert Rodriguez's Planet Terror 2007年9月22日よりTOHOシネマズ六本木、日比谷みゆき座系ほか全国順次ロードショー 2007年/アメリカ映画/上映時間:105分/配給:ブロードメディア・スタジオ

タランティーノ版とセットで見比べるのも一興

9月1日から公開されている『デス・プルーフ in グラインドハウス』(クエンティン・タランティーノ監督)に続く、「往年のB級アクション映画の復刻版」第二弾。本来この2本は同時上映するために作られたが、日本ではディレクターズカットとして長めに再編集され、おのおの単独で上映されることになった。こちらの監督はタランティーノの盟友、ロバート・ロドリゲス。

舞台はテキサスの田舎町。陸軍部隊長(ブルース・ウィリス)と怪しげな科学者による生物兵器の取引中、トラブルからガスが空気中に放出されてしまう。それを吸った住民らは謎のウィルスに感染しゾンビ化。街は阿鼻叫喚の地獄と化す。

あらすじからわかるとおり、ゾンビ集団からのサバイバルを基軸にしたアクションホラーだ。上映前には架空のアクション映画の予告編が流されたり、フィルムの傷を再現するなど例によって「チープな地元の映画館」風味に味付けされている。とくにこのロドリゲス版で笑えるのは、ヒロインとのベッドシーンにおけるある演出だろう。普段は無表情なマスコミ試写室でも、ここはさすがに笑いが出た。

男性のアレを蒐集しているマッドサイエンティストや、素性のわからない主人公(危機に見舞われると、突然異様に強くなるあたりが笑いどころ)。ガーターベルトにはさんだ注射器を武器に戦う美人ナースなど、監督の奔放な創造力による無茶苦茶なキャラクターたちが多数登場。観客サービスのためなら、ストーリーの齟齬なんて気にしねえ、ってな勢いを楽しむ一品だ。

極めつけは片足をゾンビに食いちぎられながらも、そこに弾切れ無しの自動小銃を義足代わりに突き刺して反撃するセクシーヒロイン。腕が銃になるのは『コブラ』や『ブラックエンジェルズ』などの漫画でおなじみだが、足がマシンガンというのは一味違う。このヒロインはダンサーだから、ブリッジしたり開脚したり、動きが多彩だ。攻撃時のカッコよさと、ぴょこぴょこ歩くときのこっけいさのギャップがたまらない。

惜しむらくは、義足モードでの登場時間が短いところ。とはいえこういうアイデアは、まさにCG技術が発達した現代ならでは。コンセプトは70年代風でも、新しい技術を積極的に使っていく点がこの企画の良いところだ。

多くの人は、『デス・プルーフ in グラインドハウス』と続けて見比べることで、二人の人気監督タランティーノとロドリゲスの違いや共通点に思いをはせることになろう。

私も同じ日に2本の試写を見たことで、改めてこの二人の個性の違いを感じ取ることができ、興味深かった。その印象を一言で言うと、上手いのはロドリゲス、光るのはタランティーノといったところ。どちらが好みかはあえて語るまい。

二人とも映画に対する、なにより自分の作品に対する強烈な愛情を感じさせるが、ロドリゲスのそれは少々自分本位な自己愛に見える。脚本も音楽もなんでも一人でこなし、おまけに自分ちで映画作りをやっている彼は、親戚や家族も積極的に自作品に登場させる。タラと違って彼の自己愛に可愛げがないのは、そんなところに起因しているのかなと思う。

話しはズレたが、まとめとして本作は、死亡フラグおかまいなしでバンバン人が殺され、その馬鹿馬鹿しい死に様を笑いながら見られる人(つまりスプラッタホラーの楽しみ方を了解している観客のことだ)にとって、平均以上に楽しめる一本であることは間違いない。逆にそうした冗談が通じないタイプの方には、この残酷描写の数々は苦痛以外のなんでもないから要注意。



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