『ウィッカーマン』65点(100点満点中)
The Wicker Man 2007年9月1日(土)より全国順次ロードショー 2006年/ドイツ、アメリカ/101分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

ただのスリラーと思えばまあまあ

名高いカルトムービーのリメイクである本作は、むしろオリジナルを知らない観客こそ楽しめるようなアレンジが加えられている。

誠実な性格の白バイ警官(ニコラス・ケイジ)は、ある交通事故現場で少女を救えなかった体験に悩まされていた。そんな折、突然姿を消したかつての婚約者(ケイト・ビーハン)から手紙が届く。それは、故郷のサマーズアイル島で産んだ彼女の娘が行方不明になり、手を貸してほしいとの内容だった。

ニコラス・ケイジ演じる警官は正義感が強く、また愛情深い男であり、自分の前から理由も告げずに姿を消した不誠実な恋人のため、単身この離れ小島にやってくる。どこからどうみても善人であり、物語の展開上、彼に落ち度はない。そこが大きなポイントとなってくる。

オリジナルでは、主人公は非現実的なまでに敬虔なクリスチャンであり、サマーズアイル島の住民たちの風習(フリーセックスなど、彼の倫理にそぐわない原始宗教の儀式など)に戸惑い、反発する姿が描かれていた。

しかしこのリメイク版では、(大まかなストーリーは変わっていないものの)大胆なことにその設定は大きく変化した。本作にはフリーセックスも奇妙な歌詞の歌も、姦淫を罪と考える主人公も出てこない。

なぜ、大事な部分を変更してしまったのだろうか。オリジナルキャラクターのような人物が時代にそぐわないから、というのはもちろんあろう。だが、この主人公により深く感情移入させたいという、作り手の計算をこそ私は感じる(むろん、それには演出上の目的がある)。この映画のニコラス・ケイジは、現在のアメリカ人が理想とするであろう好人物として、あまりにもステレオタイプに造形されすぎている。

しかし、それはすなわち「島の原始宗教とキリスト教を対比させることで、人々が絶対的価値と信じているモラルが決してそうではない事を示し、観客の足元を揺るがす」オリジナルのテーマ性を捨てるということだ。

その代わりに持ち込んだのが、「観客の支持を一身に集める主人公に降りかかる大どんでん返しの衝撃」というわけだ。つまりこの新『ウィッカーマン』はカルトでもなんでもない、ただの逆転スリラーを目指したということだ。むろん、それもオリジナルのいち要素ではあるわけだが。

そしてそう考えると、これは世間で言われるほど(本作はラジー賞に多数ノミネートされている)悪くはない映画だ。

行方不明少女の捜査にまったく協力しようともしない住民は狂信者そのもので不気味だし、終盤はさまざまな小技がきいて大きくスリルが盛り上がる。冒頭に書いたように、主人公にまったく罪がないだけに、この内容は恐ろしい。

希望を持たせて叩き落したりなど、この監督らしい毒の強さも随所に見られる。通常のスリラー、ホラー映画としてみれば、味わい深い演出の数々を見つけることができるだろう。

そんなわけで本作は、オリジナルに思い入れがない人でちょっと不気味などんでん返し系恐怖映画を見たい人にこそオススメする。その逆の場合は、原版とのあまりの違い、物足りなさにガッカリすることになるだろうから注意が必要だ。



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