『オーシャンズ13』65点(100点満点中)
OCEANS’S 13 2007年8月10日(金)、丸の内ピカデリー1他全国ロードショー 2007年/アメリカ/122分/配給:ワーナー

デートのお供に最適なお気楽犯罪ムービー

オールスターキャストをスティーヴン・ソダーバーグ監督の軽妙な演出で見せる犯罪シリーズの第3弾である本作は、前作『オーシャンズ12』の悪い点をものの見事に修正し、コンテンツとしての延命を決定付けた一本といえる。

ダニー・オーシャン(ジョージ・クルーニー)率いる職人的な泥棒チーム"オーシャンズ"の中で、もっとも手堅く資産を増やしていたルーベン(エリオット・グールド)は、ホテル王バンク(アル・パチーノ)が提案するベガスの豪華ホテルの共同経営に参加する。ルーベンの人の良さを心配する仲間たちが警告していたにも関わらず、彼は狡猾なバンクにだまされ財産を失い、ショックによる心筋梗塞で倒れてしまう。復讐に燃えるオーシャンズは、ホテルのグランドオープンを滅茶苦茶にし、バンクを破産させるべく水面下で動き出した。

前作はあまりにオフザケがすぎ、「出演者とスタッフの自己満足が見苦しい」と厳しい批判にさらされた。今回も「これだけのメンバーに適当に気の利いたセリフをしゃべらせとけば、とりあえず客は入るだろう」との認識に基づいたお気楽映画であることに違いは無いが、少なくともごく普通の、ストーリーを楽しませる犯罪映画として成立している。

といってもひねりはゼロで、大事な仲間を騙したパチーノを2時間かけてとっちめるという、ただそれだけの話にすぎない。展開もシンプル極まりない一本道で、クルーニーやブラッド・ピットらオーシャンズの首脳たち?が前半、練りに練った復讐アイデアを仲間と観客に披露し、後半それを実行するだけ。意外性のカケラもない。

もしこの話を無名の役者たちがやっていたら、間違いなくお蔵入り。ワーナーブラザーズ社屋に設置の巨大ゴミ箱行き決定だ。

しかし、ご存知のとおり『オーシャンズ13』の出演者は無名ではない。それどころかハリウッドを代表するキラ星のような俳優たちが、出ずっぱりで目を楽しませてくれる超豪華版だ。それを考慮に入れれば、十分平均点以上の満足は得られるといえよう。

彼らの顔だけ見ていても「はい10億円、はい20億円」とそのギャラが脳内で無意識のうちに足し算され、この上なくゴージャスな気分になれるが、劇中でも、たかが一人を破滅させるためにえらくまどろっこしい、言い換えればとんでもなくマネーがかかった作戦が描かれる。そう、『オーシャンズ13』は、この世でもっともお金をかけた悪者イジメを楽しむ映画である。

もっともパチーノ自身、実力の2割程度の流し運転といった印象の肩肘張らない演技で悪役を楽しそうに演じているので、悲壮感はまったく無い。いや、むしろこのシリーズの能天気なムードに自分を合わせているのだとしたら、これはこれで大した演技だ。

それにしても、前作で大泥棒を演じたヴァンサン・カッセルの出演シーンなど、どこからどうみてもとってつけのようなモノまで加えてオールスターを維持しなくてはならぬソダーバーグも大変だ。おそらく高校野球最後の試合の9回裏に、3年生の補欠を次々と代打で送り込む野球部監督のような心境であろう。

結論としては、"映画"を見たいときというより、2時間を退屈せずつぶしたいときに最適な作品。カップルのみなさんには、映画館を出た3秒後には内容のすべてを忘却し、次のディナーの話題にスムースに移れることだけは少なくとも保証しよう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.