『ブリッジ』85点(100点満点中)
THE BRIDGE 2007年6月16日より恵比寿ガーデンシネマ他にてロードショー 2006年/アメリカ/93分/配給:トルネード・フィルム

映画史上有数の問題作

『ブリッジ』をすこぶる気に入った私は、すでにテレビや雑誌等いくつかの媒体で紹介してきたが、今日はここ超映画批評で初めて知ったという方のためだけに、まったく新しい形でこの映画の記事を書こうと思っている。

映画のタイトルは、サンフランシスコの観光名所ゴールデンゲートブリッジのこと。この作品は、あの美しいデザインのつり橋についてのドキュメンタリーである。

……と、ここまでが私が本作鑑賞前に知っていた予備知識のすべて。この映画がいったいどういう内容か、すでに知っている人は私が本編をみたときどう感じたか、想像するだけでニヤニヤしてしまうことだろう。

じじつ、建設保守の苦労や感動秘話でたっぷり泣かせるプロジェクトX的なものかなーなどとと思っていた私は、最初にデブのおじさんが出てきて、そこでしでかした事に腰を抜かした。宣伝の人にあとで聞いたら、同じ体験をしたプレス関係者が幾人もいたらしい。

私はそのとき彼女に、「この映画の宣伝プランどうなってるの。ネタばらししちゃうの?」 と聞いてみた。ただこれは少々意地悪な質問であり、本来なら私同様真っ白な状態で見てほしい映画ではあるものの、宣伝側の立場としては現実的にそれは無理というものだ。なにしろ、そのネタは破壊的な集客力を持つことが明白なのだから。「この映画には○○の鮮明映像がたくさん収録されています」というだけで、連日満員は間違いない。

そんなわけで本作の劇場予告編その他(私が各媒体に書いた文章も含む)を見てすでにネタを知っている人にとって、この記事は少々退屈かもしれないが、どうかご容赦願いたい。ただ、もしもこのページをはじめて読んで、何のことを言っているのかさっぱりわからないという人がいたら、見ざる聞かざるでさっさと映画館に行ってしまう方がよいだろう。

『ブリッジ』がどんな人に向いているかというと、既存のありきたりな映画に飽いている人。また、予定調和なハッピーエンドより、少しはひねくれたものを好む人。そしてなにより、かつて見たこともないような、強烈なインパクトを受けたい人だ。

この作品は、そうした人々が好むような編集になっており、あえて後味を悪くするように作ってある。同じ素材で正反対の印象を受けるようにすることもできたのだが、この監督はあえてそれをしない。そこがいい。

そして、これを見ると日米の価値観のあまりの違いに驚き、心にドシンとくるようなショックを受けることになる。なぜこの監督、スタッフたちはこんなことができるのか。日本的なものの考え方では、到底理解しにくい。その一見冷たい態度、徹底した現実主義、個人主義といった製作の背景に思いをめぐらせる事も、本作の味わいのひとつといえる。

いずれにせよ、これは本年度屈指の問題作。とんでもない映画だ。妊婦や子供には見せないほうがいいと思うが、だからといって見逃したらあとで必ず損した気分になろう。



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