『あなたになら言える秘密のこと』55点(100点満点中)
The Secret Life of Words 2007年2月10日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズ他にて全国公開 2005年/スペイン/1時間54分/配給:松竹

傷ついた女性の再生物語

2003年に『死ぬまでにしたい10のこと』という作品が、ミニシアター系としては記録的な大ヒットとなった。本作はその監督&主演女優が再びタッグを組んだ人間ドラマ。『死ぬまでにしたい10のこと』については、作品の出来というより心に残る邦題が勝因だったのではないかと私は思っていたが、似たような邦題で公開するあたり、なるほどなと思う。

他人との交流を断ち、黙々と工場での仕事に打ち込むハンナ(サラ・ポーリー)。休みもとらないその異常な様子をみて、上司は半ば無理やり1ヶ月の休暇を与えた。無目的な旅に出たハンナはその途中、油田掘削所で介護士を募集していることを知る。心得があった彼女は、完全に外界から閉ざされた海上に浮かぶ掘削所で、事故で一時的に視力をなくしたジョゼフ(ティム・ロビンス)の介護を行うことにする。

正体のわからぬ子供の声でナレーションが入ったりする謎めいた進行。ヒロインのハンナはなにやら訳アリな様子だが、それがなぜなのかはわからない。異様なまでに勤勉な姿、毎昼まったく同じ弁当(しかもメニューがかなり変)、バスルームに積み上げられた一種類のみの石鹸……。そうしたディテールを丁寧に積み重ねることで、このヒロインが何か過去にとんでもない目に合い、精神に重大な傷を負った人物なのだと伝えてくる。

ハンナが油田掘削所などという、非日常の極みのような場所に行くのはほんの気まぐれによる偶然だが、ここで彼女は重要な出会いをする。目が見えないのに前向きな、まるで彼女と正反対の性格のジョゼフという男だ。映画はこの二人の関係をメインに描き、ときに油田掘削所のユニークで魅力的な従業員数名との人情的ふれあいも交えて展開する。

ジョゼフの世話をするうちに、ハンナが徐々に心を開いていくという展開は王道であるが、前述のディテールの積み重ねや、ジョゼフの目が見えないという設定が、ある種の説得力として後半ボディブローのように効いてくる。油田掘削所の新鮮かつ不思議な景色もまた、そこに一役買っている。

全体的にイザベル・コヘット監督の演出は丁寧で、役者の演技も申し分ないが、それでもいくつか物足りない部分もあった。たとえば、ヒロインがある料理を食べて心情を大きく変化させる場面などは、気持ちはわかるがもう少し強調してもよい気がする。個人的には、ここに限らずハンナの心の変化に少々唐突な印象を受けた。演じるサラ・ポーリーの表情をもっと映してほしいと思う。

ヒロインの過去やそのほかの謎は最後に明らかになるが、東欧の歴史に多少は通じていないとあまりピンとこないかもしれない。ここで作り手がいいたいことは、リアリティを重視したつくりの割に相当ファンタジックなものだと私は思うが、それでも夢を見させてくれる程度の説得力はあった。基本的にヒロインに感情移入しやすい作品でも、単純に泣ける映画でもないので、それでも大丈夫という人にのみ勧めたい。



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