『ルワンダの涙』75点(100点満点中)
Shooting Dogs 2007年1月27日(土)より全国順次公開 2005年/イギリス・ドイツ/115分/配給:エイベックスエンタテインメント

白人視点から描くルワンダ事件

昨年話題になった『ホテル・ルワンダ』と同じルワンダ虐殺事件を、別の切り口で描いた劇映画。あれだけの傑作の後発という厳しい立場ではあるが、なかなかどうして見ごたえのある一本であった。

海外青年協力隊の一員としてルワンダにやってきた英国人青年(ヒュー・ダンシー)は、人格者で知られるクリストファー神父(ジョン・ハート)のもと、公立技術専門学校で英語を教えている。そんなある日、フツ族出身の大統領暗殺事件を契機として、ツチ族皆殺し作戦が開始された。この学校には国連軍が駐留し治安を守っていたため、彼らと神父を頼る膨大な数のツチ族住民らが逃げ込んでくるのだった。

別の切り口とは言うが、ストーリーはほとんど『ホテルルワンダ』と同じ。ここまで似通った作品も珍しいが、しいて言えばこちらは徹底して白人、すなわちよそ者、第三者の視点で事件を描いている。さらに、サバイバル劇としての娯楽性などをことさら高めることなく、淡々と、そして真摯に事実を伝えようとしている。この企画を考えた製作者は、当時ルワンダにいた自分が何もできずに帰国してしまったことを悔いているというが、その思いはこのあたりによく現れている。

神父にはモデルがいるが、主人公のほうは映画製作時に取材した人々を統合して作り上げたキャラクター。本物のエピソードをいくつも盛り込み、現地ロケによりリアリティを向上させた。この成果はエンドロールのある演出においても顕著で、本編が終わったあともいくつかの驚きと感動を私たちに与えてくれる。

かつての隣人が殺人者へと変貌する絶望的なまでの悲劇、泥沼化を恐れ介入しない先進国、補給なき軍隊となった国連軍の無力。そうした事実の積み重ねが、怒りや絶望、悲しみといった観客の感情を揺さぶる。ツチ族の男が国連軍にあるお願いをする場面は最大の見所で、あまりの理不尽さにやるせない気分になる。

同時多発的な側面を持っていたルワンダ事件を実感するためにも、この作品は『ホテル・ルワンダ』とセットで鑑賞することをすすめたい。どちらも、映画でこれほど強く感情を刺激されることはあまりない、と思えるほどの作品であるから、十分な満足を得ることができるだろう。



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