『どろろ』45点(100点満点中)
2007年1月27日有楽座ほか 2007年/日本/配給:東宝

VFXと妻夫木聡と柴咲コウを見る映画、ではあるが

「どろろ」は根強いファンを持つ手塚治虫の同名原作を、20億円という邦画としては巨額の予算をかけ、VFXの見せ場たっぷりで作られた妖怪アクション映画だ。大作だけに妻夫木聡&柴咲コウという金看板二枚を主演に据える万全の体勢。ヒットしてくれないと困りますよ、というわけだ。

どこか日本の戦国時代を思わせる異世界、野心あふれる武将、醍醐景光(中井貴一)は天下取りの力と引き換えに、我が子の体を幾多の魔物へと差し出す。やがて48の部位を失って生まれてきた赤ん坊は、そのまま川に捨てられてしまうが、心優しい医者の秘術により人工の体で補完され、やがて立派な青年百鬼丸(妻夫木聡)へと成長する。

さて、そんな悲しい出生をもつこのヒーローは、一体の魔物を倒すたび、失われた自分の肉体をひとつ取り戻すことができる。やがて、両腕に仕込まれた無銘刀で戦う百鬼丸の姿を見たコソ泥のどろろ(柴咲コウ)は、その刀に見惚れて無理やり同行することにする。この二人の奇妙な道中が物語のメインロードとなる。

肉体を探す旅は、そのまま若者の成長過程のもがき苦しみに通じるという含蓄が原作にはあるが、映画のほうはそのような哲学的な雰囲気は一切カットし、魔物を倒すたびにカラダの一部が戻ってくるという、アイデアの面白さを主に楽しむ娯楽重視のつくり。結末が尻切れ気味の原作漫画の欠落部も埋め合わせてあるし、奇抜な設定を納得させるだけの手順も踏んでおり、破綻を感じることはほとんどない。

よって、ニュージーランドロケによる非日本的な風景や、どろろの年齢など原作からの大きな設定変更および、それにともなく小変更もすんなりと受け入れられる。柴咲コウの突き抜けた演技もふくめた不思議な世界観へおおいに引き込まれる。

戦闘シーンは、『HERO』(02年、香港、中国)のアクション監督チン・シウトンを招き、思い切り派手に演出されるが、原っぱで怪物相手にジャンプキックする姿はなんだか仮面ライダーを髣髴とさせ、妙にノスタルジックだったりもする。

そうした場面中心にCG技術が随所に用いられているが、その出来には激しいむらがあり、ときおり驚くほど安っぽい、ぬり絵然とした仕上がりのものがスクリーンに映し出されて驚かされる。細かいコトは気にすんなってな具合で、よく言えば豪放、悪く言えば大味である。

人体を切り張りするという発想は、いかにも医学博士でもある手塚治虫らしいものがあるが、かわいらしい絵柄の漫画とちがって映画版の実写でみると、かなり悪趣味で気持ちが悪い。ストレートな描写も多く、私だったら小さい子にこれは見せられないなと思う。

しかし、そうなってくるとこの映画の対象観客層は相当絞られよう。主演の二人がいかに人気者とはいえ、彼らのファン層がこうした妖怪ファンタジージャンルを好んでみるとは到底思えない。『どろろ』は、この手の作品を見慣れない人が見て、楽しめる出来ではまったくない。これは、本作のもつ致命的な弱点だ。

原作ファンなら基本の設定をしっかり理解できているからそれなりに見られるだろうが、そうしたコアな客が、20億円を突っ込んだ大作に見合った数だけいるとも思えない。結果、こんなリスキーな映画によくこれだけの製作費が集まったものだと感心せざるを得ない。



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