『記憶の棘』40点(100点満点中)

鑑賞後、真相をああだこうだ推理する楽しみはあるが

ニコール・キッドマンという女優は、脚本の選び方、すなわち次に自分がどの映画に出れば良いのか、の判断基準がしっかりとしている。トップスターの割に彼女の出演作は、予算規模の大きな作品ばかりではないのだが、どれもほぼ例外なく脚本が優れた、あるいは個性的な作品となっている。

このサスペンス映画『記憶の棘』も、なかなか意欲的な仕掛けのあるストーリーで、アメリカでは見た人の間で大きく解釈が分かれ、ちょっとした論争になっているという。

ヒロインの未亡人(N・キッドマン)は、10年前に最愛の夫ショーンを失ったショックからようやく立ち直り、その間待ちつづけてくれた新恋人(ダニー・ヒューストン)のプロポーズを受けることに。ところがそこに突然、同じアパートに住む少年(キャメロン・ブライト)が現れ、自分は夫ショーンの生まれ変わりだと告げる。

さて、普通ならここは、年上好きのクレヨンしんちゃんのような少年の、かわいい初恋だね、で終わるところだが、この少年の場合、死んだ夫ショーンしか知らぬような事を知っていたりするから恐ろしい。最初は相手にしなかったニコールの心も揺れまくり、いよいよ少年を見る目が恋する女の目に変わってくる。果たしてこの少年は本物の生まれ変わりなのか? それとも……。

さて、この少年の正体について、本国のアメリカで論争が起こっていると最初に書いたが、私の解釈は案外はっきりとしている。詳細はネタバレになるので書けないが、こちらの真相でなければ、物語の悲劇性が際立たず、演出効果が薄れてしまうというのが、これを推理した大きなの理由の一つだ。また、もし逆のパターンであるならば、これがミステリである以上、動機の説明をにおわす場面が必ずあったはずだし、そもそもオチとして面白くない。

とはいえ正直なところ、その解釈にたどり着けたところでさほどの気持ちよさはない。謎自体が小粒だし、伏線に凝っているわけでもないので、パズルがはまるような面白みに欠けるのだ。

ミュージックビデオなど映像畑出身の監督による、彩度を下げたニューヨークの重厚でクリヤーな映像美と、ニコール&名子役キャメロン・ブライトのスーパー演技によって映画が格調高く見えるだけで、物語はB級サスペンスのごときレベル。意欲は認めるが、もっと大胆に伏線を張って、真相にたどり着く際の快感を高めてもらいたいところ。これでは最後までモヤモヤとハッキリしない気分ばかりが残る。



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