『バックダンサーズ!』45点(100点満点中)

話は子供っぽいが、ダンスシーンは鮮やか

『バックダンサーズ!』は、ダンスを踊ることや見ることが好きな、主に10代から20代前半くらいの若者向きの、気軽な青春ドラマだ。元SPEEDのhiro、平山あや、ソニン、サエコの4人が演じるダンスユニットの努力と友情を、ライブ感あふれる映像で描く。

永山耕三監督は、公開中の『東京フレンズ The Movie』の監督でもあるが、この2本はやはり雰囲気が似通っている。(30代以上の方には、ドラマ『東京ラブストーリー』の演出をやった人、といえばなんとなく伝わるだろうか)

夜の街で踊りまくっていたよしか(hiro)とミウ(平山あや)は、ともえ(ソニン)や愛子(サエコ)とともにアイドルのバックダンサーとしてデビューする。しかし、肝心のアイドルが電撃引退し、残された彼女たちは窮地に立たされる。やがて4人は、新米マネージャー(田中圭)の提案で、落ち目のベテラン歌手(陣内孝則)率いるロックバンドと組んでツアー先を回ることにするが。

『バックダンサーズ!』は、下手に大人の観客を意識せず、少女向けに割り切って作ってあるから、テーマは幼いが、それなりに気楽に楽しんでみることができる。

これが子供向けだというのは、ヒロインたちの動きを追うとよくわかる。まず学校を退学になった彼女らが、夜の街をフラフラしていたところ、唐突に芸能事務所からスカウトされる。とんとん拍子でデビューするが、事務所に実力がないからあっという間に人気はしぼむ。それでも好きなダンスを続けていると、再起のチャンスがやってくる。

スカウトされるまでの流れは不健全そのものだし、芸能界に入ってからも、彼女たちの最終目的は「カッコよくなりたいから」などと、本気で目指す人をバカにするかのごとき甘ったれた回答。そんなヒロインたちが、たいした努力もせず上昇していくお気軽さは、いかにも現代的だ。

まあここまでは、若い観客を感情移入させるための常道なので仕方がないかもしれないが、面白いことにこの映画は、そんな子供っぽい主張を全面的に肯定する。言い換えれば、確信的に子供たちの観客にこびた作りとなっている。

後半には、大人の世界の怖さをチラっと描写して一瞬感心させる。……が、その後はちょうど良い按配の落としどころ(挫折した4人が再起を賭けてダンスコンテストに出場する場面)を平然と通り過ぎ、あれれ、ここで終わらないでどうするの、どこまで続くの? と焦る私の心配をよそに、蛇足的展開を延々と続けてしまう。

じじつ、あのダンスコンテストまでは、物語の現実性の薄さと作り手のユーモアが、ちょうど良い距離感を保っており、コメディ部分も素直に笑えたのだが、その後の(私が思う)蛇足に入ると、そのバランスは崩れ、リアリティの無さばかりが独走していく。

むろん、こうした不満は単に私が、この映画のターゲットから外れているから、という事もあろう。しかし、この映画は途中までそこそこ楽しく見られただけに、また、大人の観客も満足できるいい結末が一度は提示されていただけに、愚痴のひとつもいいたくなってしまう。ゲームセンターに設置してある景品ゲームをやってみたら、当たりの位置をひとつ通り越してランプが止まってしまったような、もどかしい気分だ。

重要な役柄を演じる陣内孝則なども、かつて所属していたバンド「ザ・ロッカーズ」時代を彷彿とさせる激しいボーカルシーンを熱演しているだけに、少々もったいない。

『バックダンサーズ!』は、ターゲットの子たち、すなわちちょっと大人に反抗気味の少女たちにしてみれば、なかなかツボを射ており、気持ちよく自分たちを肯定してくれる砂糖味の作品になっている。おそらく点数でいえば、70点くらいにはなろう。ライブシーンなどは、なかなか本格的で安っぽくはないから、見ごたえも十分にある。ヒロイン4人より、本当の意味でのバックダンサーたちの方がダンスが上手なのはご愛嬌だが。



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