『X-MEN:ファイナルディシジョン』85点(100点満点中)

デパ地下を楽しむがごとく、キャラの魅力をつまみ食い

アメコミ映画といえば、『スーパーマン』の最新作がかなりの出来栄えで好評公開中だが、この『X-MEN』シリーズも華やかさの面では負けていない。いや、一人一人がスーパーマンに匹敵するくらい奇抜な能力を持つキャラクターの群像劇である本作は、派手さの点ではアメコミ映画の頂点に位置するといってもよい。そんな『X-MEN』の最終第3章、あまりに切なく、そしてドラマティックな『ファイナルディシジョン』がいよいよ公開となる。

ミュータントとの全面戦争を避けたい人類は、ついに治療薬、キュアを開発した。これを使えば、ミュータントたちは完全に普通の人間に戻るのだ。能力を失う事を恐れるマグニートー(イアン・マッケラン)とその仲間たちは、すぐにキュア生産のカギとなる少年の拉致に動く。

『X-MEN』の登場人物は回を追うごとにどんどん増えていくが、今回も最終章という触れ込みのわりには、序盤から続々と新キャラが登場する。それぞれ登場時間は少ないのだが、それでもわずかな時間で各々の背景を描くなど、キャラクターを大切にしていることがよくわかる。X-MENシリーズは、それぞれがスピンオフの主人公になれそうなくらい魅力的なキャラ揃いだから、どんな脇役でもおろそかにはできないというわけだ。

じっさい、クライマックスのミュータント同士の大戦争においても、各局面ではプロレス的にいう、いわゆる"手の合う"キャラクター同士が見ごたえたっぷりの個人戦を繰り広げている。

たとえば、壁をすりぬけて逃げる少女キティを、怪力ジャガーノートが壁ごと破壊しながら追いかける場面や、主人公ウルヴァリンと、最強の能力を持つある人物の戦いなどは、見せ場のアイデアとしてはほぼ完璧。

X-MENのリーダーであるプロフェッサーXでさえ歯が立たなかったあの最強の敵に、誰が対峙するのかと思っていたが、さすがは主人公。どうみても一番地味な能力っぽいくせに、とてつもなく強い。これはすごい戦いであった。

また、X-MENシリーズのキャストは、パート1出演後にどんどんメジャーになっていった役者が多く、このパート3あたりになると、気づいてみれば主演級スターの競演となっている。そうした役者たちは表情に自信がみなぎっており、画面はゴージャスそのものだ。そんなわけで、どうせX-MENを見るなら、今が一番おいしいともいえる。あの女優は老けたなぁとか、ハル・ベリーはなんで年をとらないんだろうとか、余計なことを考えながら見るのもまた楽しい。

ストーリーは、前作までの「権力側 vs. 異端のものたち」というテーマは薄れたが、その分キャラクターの魅力を引き出すことを重視している。たくさんのご馳走をつまみ食いする、デパ地下歩きのような楽しさを味わえる。

VFXは、質量ともに史上最大級というべきもので、とにかくすごいの一言。それを見るためだけに劇場に出向いても満足できるほどだ。本作は、条件のよい環境で見れるかどうかで、40点くらいは点数が変わるであろう。

『X-MEN:ファイナルデシジョン』は、原作のコアなファンや、熱烈に応援するキャラがいる人よりも、1と2を見てきてそろそろこの世界観が心地よくなってきた程度の、ライトなファンに好評となりそうな出来栄えだ。

重要なアドバイスとしては、絶対にエンドロールは最後まで見なければならないということ。そのあとに残っている最後のシーンは非常に重要なもので、見逃したらお金を払った意味が半減するくらいもったいない。



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