『カーズ』90点(100点満点中)

他の追随を許さない、圧倒的な完成度の高さ

『ファインディング・ニモ』『Mr.インクレディブル』に続く、ディズニー/ピクサーによる3D-CG長編アニメーション。冬に公開された前二作と違い、今年は満を持して、最激戦区たる夏シーズンにぶつけてきた。今回の内容は、擬人化された車たちが繰り広げるファンタジードラマだ。

主人公は、天才新人レースカーのマックィーン(声:オーウェン・ウィルソン)。圧倒的な才能を持ち、自己中心的な性格の彼は、ひょんなことから地図にも載っていない田舎町ラジエーター・スプリングスに迷い込んでしまう。

『カーズ』は、実在のルート66の物語からヒントを得て作られている。それは、わずかな時間を短縮するため建設されたバイパス道路のせいで、うち捨てられた小さな町の衰亡の物語だ。その町をモデルに作られたラジエータースプリングスには、あらゆる場所にノスタルジックな思い出がつまっていて、日本人である私たちの琴線にも大いに触れる。

それはこの町が、競争社会、格差社会というものにより、私たちが失ってしまった"大切なもの、美しい風景"の象徴だからにほかならない。ここに登場するキャラクターたちは、ほんの十数年前までは、日本でもアメリカでもどこの町でも見られた、人情味あふれる愛すべき人たちだ。

レース=ビジネスの世界でスターだったマックィーンは、自分の周りには真の友人がいなかったことに、この場所で気づく。当初は寂れた村だと馬鹿にして、さっさとレースに戻りたいと思っていた彼は、徐々にこの町と、人々の魅力に気づく。

わがままで世間知らずだった彼が、人間性を取り戻して挑む最後のレース。ここからは、町の場面でたっぷりと仕込んだ伏線が一つ一つ回収されていくたび、涙涙の感動が連続的に訪れる。本当に上手いなあと思うし、歴代ピクサー作品の中でも、群を抜いて完成度の高い物語だ。

また、ピクサー作品については毎回言っている事だが、キャラクター作りがじつに巧みだ。フェラーリにあこがれるフィアットの大衆車(実在のイタリア総合自動車メーカーフィアットは、かつてスポーツカーブランドとしてフェラーリを買収した)など、車種と性格設定がマッチしており、相当なクルマ好きが作った事がよくわかる。

CG技術についても、前作から大きく進歩した。光線透写といって、クルマの表面に回りの風景が反射する描写技術が全シーンに採用されているが、これがなんとも凄い。技術自体の出来栄えも見事だが、使っている場面の物理的な量自体に圧倒される。

レースシーンも、実写では不可能なアングル、実写っぽいアングルを上手く織り交ぜ、迫力と独創性を両立させている。

また、車を擬人化するにあたって、不自然にならないデフォルメ、変形の仕方を数万カットのスケッチなどで徹底的に研究した。これを見ると、無機物を擬人化するというのは、コンピューターアニメにとってかなり相性がよいというのがわかる。

莫大な金と人材にものをいわせただけあって、こうした技術面はもう圧倒的。ここまでくると、凄みさえ感じさせる。なにしろ『カーズ』のすさまじい映像美は、前作製作時より4倍早くなったコンピュータを同時に数千台使って作業しても、数秒のシーンに数日かかるといった、それはもう気が遠くなるような力業の成果なのである。

世界最高のアニメーション技術と、大人さえ唸らせる素晴らしいストーリー。『カーズ』は、歴代ピクサー作品の中でも一二を争う傑作だ。最高のクルマ映画であり、最高のアニメーション映画であり、最高のアメリカ映画でもある。今回は、とくに男の子とお父さんに向いている。今夏必見の1本であると保証しよう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.