『ピンクパンサー』80点(100点満点中)

シリーズを知らなくても、笑いまくりな一本

ピンクパンサーといえば、中高年の方には名喜劇役者ピーター・セラーズによる実写映画版が、もうちょい若目の方にはアニメーションシリーズが、そしてもっともっと若い方には、個性的なキャラクター商品の絵柄として、おなじみのシリーズといえる。

このリメイク版『ピンクパンサー』は、そのうち実写映画版を再現したもので、クルーゾー警部の活躍(?)を描く、コメディ映画である。(……とはいっても、この場合のリメイクというのは、旧シリーズのどれかを忠実に再現した、という意味にあらず。枠組みを借りた新シリーズ、というイメージが強い)

世界的に有名な歌手(ビヨンセ)の恋人でもあるサッカー監督が、競技場で何者かに暗殺される。同時に、その指にはめられていたダイヤモンドも失われていた。世界最大級のダイヤモンド、"ピンクパンサー"の行方をめぐる警部の推理とドタバタという、シリーズの伝統を踏まえたストーリーだ。

のっけから、クルーゾー警部の常軌を逸した行動が爆笑を呼ぶ。かつてセラーズが演じたクルーゾーは、コミカルな演技はお手の物、スティーヴ・マーティン(『花嫁のパパ』シリーズ)が演じているが、これが実にはまっている。これならシリーズを知らない人にとってはもちろん、(P・セラーズとはまた微妙に違うキャラではあるが)旧ファンにとっても、比較的受け入れやすいのではあるまいか。

この主人公、やってる事は滅茶苦茶なのに、客との距離は絶妙に保ち続ける。その結果、ただのバカ映画ではなく、しっかりとした劇映画として成立している。芸達者とは、まさにこういう人のことを言うのだろう。

警部の相棒には、フランス映画界きっての人気者、ジャン・レノ(『レオン』ほか)が、まじめなコワモテ刑事としてとぼけた味を加えている。S・マーティンとは違い、こちらは日本人にもお馴染みであろう。両者の対照的なキャラクターがまた笑いを呼ぶ。

『ピンクパンサー』は、ヨーロッパのきれいな風景とクルマを背景に、フランス的ともいうべき笑いを存分に味わえる良作だ。笑いにまで現代的なアレンジを加えたリメイクで、比較的誰にでもすすめやすい一本といえる。



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