『子ぎつねヘレン』12点(100点満点中)

CMに騙される率が高そうだ

同じ週の『南極物語』が犬ならこちらはキツネ。獣医の竹田津先生とそこで保護されている動物たちの様子を描いた原作本「子ぎつねヘレンがのこしたもの」をもとに、ヘレンとある少年に焦点を絞って映画化した。

舞台は春の北海道。母(松雪泰子)と二人、東京から越してきた少年(深澤嵐)は、カメラマンとして海外取材に出かけた母によって、ぶっきらぼうな医師(大沢たかお)が経営する小さな動物病院に預けられる。ある日少年は、道端で子ぎつねを拾い、病院につれていくが、ヘレンと名づけたそのキツネは、目も耳もきこえず、母ギツネともはぐれてしまった事が判明する。

こうして、野生動物としては致命的な、おそらく放置しておけば数日と生きられなかったヘレンと少年の物語が始まる。生と死をテーマにした子供向けの動物映画だ。ヘレンを必死に生かそうとする少年が、光も音も失った野生動物の生き様から何を学ぶか、という成長物語を狙ったものであると想像される。

それにしてもこれはひどい。まるで犬の演技も人の演技も、映画としてのクォリティも高い『南極物語』の対極にあるような映画だ。すなわち、人の演技もキツネの演技のレベルも低く、演出も子供だまし。これじゃどうしようもない。『南極物語』はうますぎて泣けなかったが、こちらはヘタすぎて泣けない。こりゃまいった。

大体、この映画のスタッフは、何事にもほどほどという言葉を知らない。泣かせようというところで、あきれるほど野暮ったい演出をくどくどと繰り返す。なにしろ、目の見えない子ぎつねが、ぽろぽろ涙をながすシーンまで、実写で恥ずかしげもなくやってしまう。いくら子供むけだからといって、これはない。

さらに、少年の成長物語というテーマひとつとっても、そう簡単にやれるものではないというのに、それに加えてイジメやら動物との友情やらシングルマザーや新家族等々、いったいどこまで話を広げれば気が済むんだというくらい、風呂敷を広げてしまう。どのテーマも中途半端で、心に残るものがない。

上映時間は108分とのことだが、はっきりいって長すぎる。こんなに薄っぺらい内容なんだから、礼儀としてせめて上映時間は短めにすべきだ。でなければ子供の観客だって飽きてしまう。個人的には、あと90分くらい縮めてほしい。『南極物語』もダメな事に違いはないが、『子ぎつねヘレン』は見るものに苦痛を与えるタイプのダメ映画だ。

こうした作品を、感動大作のように装って宣伝しなければならないところに、今の松竹のつらいところがある。実際の中身は軽自動車なのに、フェラーリのボディをつけて売るようなもので、どう考えても無理があるのだが、そうでもしないとお客を呼べない。困ったものである。

『子ぎつねヘレン』は、予告編にだまされて地雷を踏む確率の高い映画である。キツネだけに、どうやら騙すのはうまい。



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