『サイレン』60点(100点満点中)

観るなら海老名か幕張で

『SIREN』というプレステ2のゲームソフトがある。ホラーゲーム史上、屈指の難度と恐怖度を誇る人気作品だ。本日、その期待の続編がいよいよ発売されたわけだが、その『SIREN2』の基本設定を使って作られた映画版がこの『サイレン』だ。ゲームの特徴でもある「他者の視点をジャックする」演出を盛り込み、サウンドデザインに力を入れた「サウンド・サイコ・スリラー」との触れ込みで、若者向けに公開される。

29年前、なぞめいたサイレン音をきっかけに、島民のほぼ全員が消失する事件がおきた。その舞台、夜美島に、病気療養のため主人公一家がやってくる。不気味なものを見るかのごとく、容赦ない視線をあびせる島民たちに戸惑いながらも、娘(市川由衣)は慣れない島での生活をはじめるのだった。

やがて彼女は隣人から、「サイレンが鳴ったら決して外に出てはならない」と忠告を受ける。そして、偶然発見した手記(29年前の事件の唯一の生存者が書き残したものらしい)の最後のページには、「3度目のサイレンで島民に変化……」と書いてあった。えも知れぬ恐怖を感じる中、朽ち果てた鉄塔から最初のサイレンが鳴り響く……。

そのあまりの不気味さ、恐ろしさに、小さい子供を持つお母さんたちからクレームが殺到、急遽テレビCMが放映中止となったことで、このゲームの存在を知った人も多いかもしれない。それほど怖い原作ゲームであるが、じつは映画のほうはぜんぜん怖くない。

いくらでも観客を怖がらせる要素はあると思われるが、どうもこの監督はホラージャンルには向いていないようだ。邦画界には、ほかにたくさんホラー映画の手練れがいるのだから、本当はそういう監督たちに任せたらよかった。怖いものを見ようとやってきた観客たちは、冒頭の消防士たちによる、恐るべき大ゲサ演技をみて、一気に萎えるであろう。この場面以降も、いわゆるコケ脅しが多すぎる。今時こんな演出で怖がってくれる観客は、そう多くあるまい。むしろ、バカバカしいと失笑する人の方が多かろう。主演の市川のアイドル演技も、それに拍車をかける。阿部寛のキレ演技はとてもよい。

同じゲーム作品の実写映画化でも、『バイオハザード』を得意のアクションホラーに仕立て上げ、大成功させたハリウッドと、これほどの名作を2流ホラーとして埋もれさせてしまう邦画界。悲しいほど対照的である。

ただし、結末に向かっての二転三転する展開はそこそこ面白いものがあり、一応の伏線もはってあるおかげで、なんとか持った、と見ることができる。それにしても、いくつか説明のつかない部分は残るので、あまり厳密なミステリ、スリラーを期待していってはよくない。

ウリである、サウンドデザイン、これについては観た試写室の音響設備が足りないせいか、あまり効果を感じることはできなかった。音響設備の優れたシネコンのような映画館で観る方は、また違った印象を受けるかもしれない。ちなみに都内近郊では、TOHOシネマズ海老名(神奈川)とシネプレックス10幕張(千葉)は、私の知る限り、こと音響においては他のシネコン等と明らかに一線を画す、最強の映画館だ。本作のように音にこだわった作品は、多少足を伸ばしてもこのどちらかで観る事を強くオススメする。一度ここで観たら、ほかの映画館に同じ料金を支払うのがバカバカしくなる。(立川市のシネマシティも良いそうです。読者の方より)



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