『ジャーヘッド』55点(100点満点中)

いまさら湾岸戦争か、という気持ちにはなれど

アメリカ映画界というのは興味深いところで、戦争が起きるとこぞって愛国心を煽るような映画を作る。そして一応の終戦をみると、その数年後には先ほどの戦争を反省するかのような内容の映画が作られる。そのパターンで最も記憶に新しいのはベトナム戦争であるが、あれだけの数の反省映画が作られ、少しは進歩したかと思いきや、湾岸戦争でまた同じ事をやっている。要するにアメリカ人というのは、反省しているようで、本質的な部分は何も変わっちゃいないのである。

この『ジャーヘッド』は、いわゆる第一次湾岸戦争(1991年)を舞台にした戦争映画だ。その流れで巻き起こった第二次湾岸戦争(2003年〜)がようやく落ち着いてきたということで、いつものパターンにより、こうした反省モノ映画が公開されるというわけである。ここんところ公開が集中している他の社会派映画(『ミュンヘン』や『シリアナ』など)も、基本的にはこの流行の中にある。

『ジャーヘッド』は、戦争映画としては異質な作品だ。主人公は血気盛んな若者で、荒くれ者揃いで知られる海兵隊の特殊部隊訓練に飛び込み、ついにスナイパーとしてイラクに配属される。ところが時は戦争末期。彼は戦闘とは無縁の退屈な砂漠の中で、ただひたすら時が過ぎるのを待ち、水を飲み、訓練し、そしてまた待つという、想像とはまったく違った戦場を体験することになる。

『ジャーヘッド』の面白い点は、実際にイラク戦争に従軍した兵士の手記を元にしただけあって、ディテールまでリアルに「砂漠の戦場における日常」が再現されている部分にある。兵士たちの糞尿処理の方法(とてもクサそうだ)や、闇夜の中、油田火災に対処する作業の様子、黒い砂漠に白い足跡を残す兵士の描写などは、映像的な意味でも非常に新鮮だ。

出撃前に、全員で映画『地獄の黙示録』の有名な一場面を見て、若い兵士たちが大騒ぎするシーンも印象的。映画館に座っている身としては、この方たちは、なんておバカさんなんだろうと思うが、同時に、若者の士気を高める効果を計算した上で、彼らにあの映画を見せている、上層部の発想が空恐ろしくなる。こういう場面で戦争の狂気、薄気味の悪さを伝えようとするサム・メンデス監督の演出は、やり方がドライな分、大きな効果をあげている。

この映画は湾岸戦争に対し、ある意味突き放して描いている点が興味深い。イラク国民の悲惨な死に様や米軍の残虐性を強調することなく、かといって米軍の正義を擁護する様子も見せない。まさに、砂漠のようにドライに「戦場の日常」を描くのみ。実際の戦争ってのは、こういう一面もあるのですよ、と伝えてくる。とても面白い。



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