『フライトプラン』35点(100点満点中)

あまりに大味

親日家で知られ、日本でも人気の高い女優ジョディ・フォスター久々の主演作は、飛行中の旅客機を舞台にしたサスペンスドラマだ。

ジョディ演じる主人公は、夫を事故で亡くしたばかりで悲しみにくれる女性。あまりのことに、少々情緒不安定気味だ。そんな彼女が夫の遺体とともに搭乗したジャンボジェットの中で、ほんのわずか目を離した隙に、幼い娘がいなくなった。慌てて探すが、どこにもおらず、驚くべきことに乗務員からは「搭乗名簿に娘さんの名前はありません」と告げられる。まわりの乗客も、誰一人、最初から娘など見ていないという。

飛行中の航空機内で娘が誘拐された?! はたしてこれはヒロインの妄想なのか、それとも仕組まれた陰謀なのか。どちらとも判断しきれぬまま、物語は進む。このヒロインは、具合のいいことに、何とこの飛行機を設計した技師。つまり、何か隠せそうなスペースは全部わかる。そんなわけで、客室部分以外、天井裏や貨物室まで単独で勝手に探しまくるという、周りの人々大迷惑なお話である。

この主人公、夫を亡くしたばかりでパニクってるとはいえ、アラブ人を見たとたんテロリスト扱いするなど、アメリカ的ゴーマニズム丸出し。ほとんどの方は、感情移入など出来ぬであろう。こうした態度を反省する描写が、最後まで出てこない点にもあきれ果てる。この映画を作った人たちは、このヒロインのひどい態度の数々を恥じるどころか、気づいてもいないのだ。まさに、面の皮推定50cm。

迷惑なのは劇中の乗客ばかりではない。ある航空会社は、この映画のストーリーがあまりにひどいというので、クレームをつけた。しかしそれも当然。この映画に出てくる客室乗務員の態度のひどさといったらない。ミスディレクションのためとはいえ、そのフォローをやっていないのだから、航空会社が怒るのも当然だ。これに対し、フィクションだから許せとは、これまた傲慢以外の何者でもない。

ストーリーも真相も大味で、トリックの必然性という、ミステリの基本からしてまったくなっていない。おまけに説明不足で伏線不足、かつ放りっぱなし。設定は面白いし、もっと細かいところまで気を使えば良くなる事は間違いないのに、あらゆる点でフォロー不足。ジョディほどの演技派が出演する作品としては、まれにみる脚本の不出来に驚かされる一本であった。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.